2、ケモ耳巫女さん、記憶を取り戻す

「お夕飯お持ちしましたぁ」


「山奥なので質素なものしかご用意できませんでしたが――」


//SE 食器を並べる音


「お酒もおつけしましたよ」


(声が近づいて)

「それではまず一献いっこん


//SE 徳利とっくりからお猪口に酒を注ぐ音


「変わった匂いがしますか?」


「ええ。自家製の薬膳酒なんです。旅の疲れが取れますよ」


(焦って)

「ふにゃ!? 怪しいものなんて入ってませんってば! ただの果実酒ですよぉ」


(やや落ち込んで)

「わたしがこんな姿だから、信用してもらえないのかにゃ……」


「あ、なんの果実か知りたかっただけなんですね」//ホッとする


(自信満々で)

「マタタビ酒です!」

「マタタビの実を氷砂糖とホワイトリカーに漬け込んで作るんですよ。人間さんにも疲労回復や安眠効果が期待できるんですって」


(嬉しそうに)

「えっ、わたしもいただいていいんですか?」


「はにゃっ、お客さんにお酌させてしまいましたぁ」


//SE 徳利とっくりからお猪口に酒を注ぐ音


「いただきましゅぅ」


(一拍置いて、ほんわかした声で)

「はにゃぁ…… あったかくて、ほんのり甘いです」

「ふにゃ、ほっぺがポカポカしてきました」


(ハッとして、またひとりごと)

「いけにゃい、いけにゃい」


「お鍋に火をつけますね」


(ひとりでむにゃむにゃと)

「マッチ、マッチは―― あったニャ」


//SE シュッ、シュッとマッチを擦る音

//SE パチパチと燃える音


「固形燃料に火がつきました。お鍋全体が熱くなりますから、お気をつけくださいね」


「お鍋といっても、お豆腐と山菜だけの簡単なものですよぉ」

「なにぶん、場所が不便なもので……」


//SE コトコト、ぐつぐつと、湯豆腐に火が入る音


「あったまってきたみたいです」


「そろそろいいかにゃ?」


「よそっていきますね」


「ふにゃぁ、湯気があったかい」


//SE 汁物をよそう音


「どうぞです」


//SE 食器を置く、コトッという音


「え、わたしも食べていいんですか?」


「それじゃあ遠慮なく……」

「ちょうど寝すぎて、おなかがすいてきたところだったんです」


//SE 再び汁物をよそう音


「では、いただきます」


「あちゅっ!」


「ふにゃぁ、わたし、猫舌なの忘れてました」


「フー、フー」//一生懸命、息を吹きかける


「うーん、まだ熱い……」


「お客さん、おいしいですか?」


「よかった、よかった」


「わたし、誰かと一緒にお食事するの、何年ぶりかにゃあ」

「幸せです」


「はにゃ? お箸?」


「もちろん肉球でお箸くらい持てますよ」//馬鹿にしないで、といった雰囲気。


//SE サァァ、と梢を渡る葉擦れの音が、窓の方から聞こえる。


「くちゅん」//くしゃみをする


「夜風が冷たくなってきましたね。窓、閉めてきます」


//SE 立ち上がる衣擦れの音

//SE 障子戸を閉める音

(ここまで続いていた虫の声が聞こえなくなる)


(障子戸の近く=主人公から少し離れたところで)

「ふにゃ? 尻尾?」


(驚いて)

「にゃーん!! しまったですのニャー!」


(ひとりごとのように早口で)

「どうして尻尾が出てたのニャ!? 袴の中にしまってるはずにゃのに!」

「ハッ、さっきお手洗い行ったあとでしまい忘れたのかも……」

「一人暮らしが長すぎるのも危険ですニャ!」


(取り乱して)

「わ、わ、忘れてください! 何も見なかったと思って――」


(恐る恐る近づいてくる)

「あの、お客さん―― 全然驚いてない?」


「そりゃあ猫に尻尾があるのは当然ですが……、でも――」


(至近距離から上目遣いで)

「で、でもでも、見ちゃいましたよね?」


(震える声で)

「わ、わたしの尻尾の先が、二股に分かれているの……」


「ふにゃっ!? なんで頭を撫でてくれるのです!?」


「き、綺麗だなんて、そんな――」


「猫耳も、二股の尻尾も、モフモフの毛並みが美しいですか……」

「あ、ありがとうございます」//戸惑っている


「ふえっ!? 毛並みだけじゃなくて、わたしも美しい――?」


「うにゃうにゃ、そんな!」//慌てて否定する


(一生懸命、冷静さを保とうとして)

「そ、そりゃあ驚きますし、ぶんぶん首も振りますって!」

「お客さん、せっかくお世辞を言っていただいても、豪華な夕食は出ませんよ!」


「にゃ? 本気で言ってます?」


「だって、二股に分かれた尻尾なんて、わたしが化け物である証ですよ……」

「お客さん、こんなわたしに触れて、何が楽しいのですかにゃ?」


「えっと―― ほんとのほんとの本気で、わたしが美しい――?」

「こんな、わたしが――」


「わたしは美少女だから何も隠す必要はないし、堂々としていたら、もっと素敵だにゃんて――!」


(感動して)

「う、嬉しいですぅ」

「同じ姿の仲間が誰もいなくなって、わたしはもう二度と、誰かに受け入れてもらったり、触れてもらったりすることはないと思っていました」


「お、お客さん!」


//SE がばっと抱きついて服が触れ合う音


(至近距離で)

「ふにゃっ、すみません! つい抱きついちゃいました! 人肌が恋しくて……」


「え、このままでいい?」


「うう、あったかい。お客さんの胸、あったかいです」


//SE リーン、リーンと遠くから風鈴の音が、何度も聞こえる

//SE 外からちょろちょろと水の流れる音が聞こえてくる。


「はにゃ? この音――」

「まさか、枯れていた手水舎ちょうずやに、お水が戻って来た!?」


「はい、参拝前に手や口を清めていただくお水のことです。湧き水を使っていたのですが、いつしか枯れてしまって――」


//SE ボッ、ボッ、ボッと火が入る音が、外から連続して聞こえる


「中庭の石灯籠にどんどん火が入っていきます!」


「お客さん、見てください! 障子越しに見える中庭が、真昼のような明るさです!」


「ええ、とっても不思議ですよね! 見に行きましょう」


(小声で)

「あ、お客さん、わたしと手をつにゃいでくれてる……。嬉しいニャ」


//SE カラリと障子戸を開ける音

//SE 石灯籠の中で灯が燃える音


「わぁ、並んでる石灯籠からパチパチと暖かい音がします」


「ふにゃ? 本当だにゃ!」

「お客さんの言う通りです! ずっと花をつけなかった桜の木が満開です!」


「それに、見てください。参道のほう――」

「鳥居の朱色も戻ってますよ!」


「思い出しました。これが、神聖なおやしろ本来の姿です」


「それからもうひとつ、わたし、お客さんのおかげで大切な記憶を取り戻しました」

「わたしこそが癒しの神力を授かった、特別な猫又だったのです」


「お客さんがわたしに本来の力を思い出させてくれました」

「私の力が戻って、さびれていたおやしろも在りし日の姿を取り戻したのです」




─ * ─




次回は神社の秘密も明かされます。

明日の夜更新です!

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