第21話 私の勇者

アジトの薄暗い部屋に戻った茉優は、肩を落とし、泥と雨に濡れた服を揺らした。壁の明かりがぼんやりと照らす中、息を整えようとしても、胸の奥がざわざわと騒ぎ続ける。


「……ねぇ、君の気持ちの何が私をそこまで拒絶するの?」


 真輝の声が脳裏でリフレインする。思い当たる節はたくさんあるのに、どうしても答えが見つからない。


 あの子とは……一生分かり合えない。

 生きてる場所が違う、育ってきた環境が違いすぎる。


 あの子が私の過去を知ったらどうするだろう。

 慰めるだろう。でもそれは、私を理解してのものじゃない。わからないのに慰めて、私を惨めにするだけ。


 怒り、苛立ち、焦燥――感情がぐるぐると渦を巻く。


 ウザイ、ウザイ、ウザイ……!

 ウザイ、ウザイ、ウザイ……!


 目の前の壁が揺れるような感覚に、茉優は拳を握りしめる。雨上がりの夜の戦いで受けた痛み、追いかけられた恐怖、真輝の言葉への苛立ち……すべてが頭の中で混ざり合い、秩序を失っていた。


 そして、茉優はふと自分に問いかける。


「……私の勇者って、なんだっけ……?」


 誰かに守られるための存在? それとも、ただ見るための対象?

 思い返しても答えはない。夜の街を駆け抜け、誰もいないアジトに戻った今、ただ一つ確かなのは――自分の心の中にだけ存在する“闇”が、まだ消えてはいないということだった。

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