第19話 リベンジマッチ

雨上がりの夜、茉優はアジトを出ると、フードを深くかぶり街の闇に溶け込むように歩いた。


「さて……風梨、あなたを呼ぶのはこの街、そして私の計画」


手には小さな装置。カメラや音声センサーを仕込んだ罠だ。ターゲットをおびき寄せるための“事件”を作る。


まず目をつけたのは、人通りの少ない裏路地。そこに高価そうな鞄を置き、見張りカメラで反応をチェックする。誰かが触れれば、茉優のスマホに通知が届く仕組みだ。


次に、街角の古びたビル前に小さな騒ぎを仕掛ける。ペンキの缶が倒れ、演技された叫び声が流れる。これもまた勇者を引き寄せる“餌”だ。


「来るよね……風梨」


茉優は微笑む。雨で濡れたアスファルトに映るネオンの光が、彼女の目を輝かせる。興奮と高揚が体中を巡る。


最初の罠。通行人が鞄に触れると、アラームが鳴り、茉優のスマホに情報が届く。すぐに現場に向かう勇者の気配を感じ取り、茉優は距離を取りながら観察。



一つ、また一つ。小さな事件が連鎖し、街全体が茉優の仕掛けた“劇場”になる。どこで勇者が現れるか、どの角度で現場を切り取るか、すべて茉優の掌の上。



雨に濡れたネオンの光を背に、茉優は次の罠の準備を始める。


「風梨、今度は逃さない……間近で、あなたの勇姿を絶対に見る」



 茉優は小さく笑い、スマホ画面を確認する。先ほど設置した小道具や音声センサーに反応があった。


だが、目の前に現れたのは――

























「……この前のショーケースの……」

短剣を手にした真輝の姿だった。彼女の目は冷静で、しかし真剣な輝きを帯びている。


「ちっ……風梨じゃない」

茉優は肩をすくめる。でもまあ、ターゲットが来なくても、この勇者の反応で十分“遊べる”。


真輝は慎重に距離を取りながらも、茉優を見据える。

「君のやっていることは危険なことだよ」

声は低く、しかし諭すような響き。


茉優は片手をあげて挑発する。

「危険? なにそれ。いまさら正論で諭されても……ねぇ?」


短剣が光を反射し、真輝は一歩前へ。

茉優は身をかわしながら、戦闘は始まる。


「君と私の気持ちは同じ、形が違っただけ――」

真輝は優しい声で呟きながら、茉優の行動を制止しようとする。


だが茉優は笑みを絶やさず、巧みに罠を仕掛け、偶発的な騒ぎを演出し続ける。

街全体を自分の舞台に変え、真輝を引きずり回すかのように。

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