第2話 どうやら前世について語りたい


社会の歯車になったのはいつからだっただろうか。


将来の夢は「ウルトラマン」なんて言えたのは思い出すだけで恥ずかしくなる。


年齢層がバレるので、これ以上は追及しないでほしい。


今の夢は、早く楽になりたい。


死にたいとかそこまでじゃないけど、。


「なんのために生きているのか。」


そう言ってしまう、


「ポーーーン、キューー」

電車の音が自分の声を打ち消す。


耳障りには違いないけれども、周りの人に聞かれずに済んで少しホッとする。


目線は斜め45°、耳にはイヤホン、皆誰にお辞儀をしているのか。


皮肉を言ったとて、それは自分も同じか。


同じタイミングで乗り込む人の流れ、


規律を正した軍隊か、

いや「ウイーン、ガチャン、ウイーン、ガチャン」と鳴っている気がする。


ロボットだよね。


猫型ロボットならまだ愛せる。


ぼーっと時間だけが浪費するこの時間。


目の前に座るスーツ型ロボットは、カタカタとパソコンを叩く。


大変だ、本当にどこにいても仕事に追われる。


鬼ごっこの方がまだ楽しいよ本当。


でも、歯車がずれるとすぐに点検と称して外される。


外れる先は、ゴミ処分場。


リサイクルショップの方がまだマシだが。


リサイクルにも対応年数がある。そのうち絶版だ。


今日も、平穏無事に終わればいいな。


斜め左の先に映るスマホが目に入る。


そういえば、最近スマホゲームなんてやっていなかったなと


電車の広告は日々進化しており、気づいたら映像が流れる時代になった。


「全世界6000万ダウンロード突破!

悪を正義とする世界か、善を正義とする世界か

その匙加減は君次第、シミュレーションRPGの概念を変える

アガトン・アスヒモス

今なら、10連ガチャ無料!!」


ストライクショットと言っていた時代が懐かしい。


よくあるスマホゲームの広告である。


ダウンロードするまでが億劫なのは自分だけではないはず、


だが、ニュースを見るふりや惰性で見る動画にも飽きてきた頃だなと、


10連ガチャ無料という言葉に釣られたフリをして入手のボタンを押す。


1駅の間にホーム画面に目新しい色味のアイコンが追加される。


押すとどうやら横画面のプレイみたいだ。


壮大な音楽と美しいグラフィック、神々しい聖騎士の美女と淫惑な悪魔を模した女性が目にも止まらぬスピードで攻防を繰り返す。


最後に悪魔側が放つ泥紫色の魔法を聖騎士が剣で切り裂き轟音と共にスタート画面へ映る。


今時のスマホゲームはすごいなと素直な感嘆からゲームを開始する。


船が映るスタート画面から、航海を進めた。


海を裂きながら、到着する小さな島は中世ヨーロッパを感じさせる建物、そして大きな門と教会。


色々と詰め込んでいる感は否めないが、


「ようこそマスター、私はマスターのお手伝いをする助手3R55と申します。

このゲームを行う上で最初に複数の質問に答えてもらいます。」


思考を止められて驚きながら無機質な声が聞こえる。


画面に映るのは幼女な妖精(と同棲)。


伏目がちにやる気がなさそうに見えるが、OKボタンを押す。


10問ほどであった。


好きな色から初恋の女性の名前までこれはどこかに記録されていると思うと恥ずかしいのだ

が、最後の質問だけが独特であった。


自分の人生を例えると?


少し詰まった、「歯車」ポチッ


「ありがとうございます。

あなたは善側に選ばれました。

それでは、ゲームの説明を行います。」


善とはと、広告を思い出して善と悪というフレーズを思い出す。


良かった、確かに犯罪をしたことはない。

強いていうなら中学生の頃に土手に捨てられていたエロ本拾ったぐらいだ。


それで悪にされたらたまらない。


「次は00〜00〜、お出口は左側です。」会社への最寄りに着く。


少し名残り惜しいが、勤労が終わってからにするかと電源ボタンを押す。

「カチ」


自分でも驚きだった。こんなにハマるとは。


最初は全然勝てなかった、更には自分がガチャ運がないことを忘れていた。


10代の頃から、皆が当てるレアキャラを尻目に自分は低レアでどうにかクリアする。


でもそれが楽しかった。


どうにかしてクリアしようとキャラクター性能を見て組み合わせを考えてクリアする事に逆に達成感を感じていた。


しかし時代が進むとインフレが進み、低レアだと勝てなくなり辞めてしまった。


このゲームは奥が深い。


シンプルなRPG要素、善側は人間やエルフ、ドワーフなどファンタジー世界で同盟を組む種族達が基本キャラであり、


悪側は、一言モンスター。

プレイヤーは善か悪側に選ばれ、リトと呼ばれる宝石でガチャを引き、獲得したキャラを育てる。


育て方は主に、ステージをクリアする事による経験値報酬(EXP)、ホームの島でキャラが行う訓練や修練、そして合成。


ガチャを引き要らなくなったキャラを合成する事により、経験値が貯まる。


そうそう、キャラクターはN(ノーマル)〜LR(レジェンドレア)までの6段階。


N<R<SR<SSR<UR<LRの位でわかりやすく強さが決まっている。


レアリティが高い方がキャラクターが強い。


ただ、LRの排出率は0.00000001%である。


そのためプレイヤーは低レアキャラを育てて、特殊なアイテムでレアリティを上げて行くのが基本である。


しかし、毎日SNSで投稿される皆のガチャ結果を見ると自分があまりに運がないことが露呈される。

闇おちする前に、もう少しゲーム性を説明する。


ステージは、島の中央にあるゲートを通る事により進んでいく。


ステージに挑む5名を選び、そこからは自動的にキャラクターが攻略を進める。


そう、ここが他と違う所である。


ゲーム独自のAIにより、プレイヤーではなくキャラが自分で選択し攻略を行う。


それこそ、敵に対して恐れて動けなくなる。

本当に生きているように。


ただプレイヤーは見守ることしかできない。


そのステージのクリア条件を達成するまでは、こちらは干渉することができない。


そして死んだキャラは、元に戻らない。


そうどれだけ育てても死んでしまえばそこで終了なのだ。


このゲーム性もあり、諦めてしまう者も多いが、今までのゲームと違いそこに人生があるように感じることが人々を夢中にさせた。


最後に、大きな目的というか目標は、

シンプルに陣取りゲームと一緒だ、世界がどちらかに塗り潰されたら勝ち。


ただ、自分の世界を染め上げも終わりではない、

ある意味そこまではチュートリアルとされており、

その後は他プレイヤーと戦う事(PvP)になる。。


気づいたら、ゲームを入れて2年が経った。


初期の頃は、低レアしか出ないことに絶望を感じ、


全く戦わないキャラに苛立ち、サボるキャラを一通り合成することで溜飲を下げる悪循環に陥り、アガアスを辞めると思っていた。


しかし、手塩にかけたキャラが成長する姿を見て、


死ぬなと生きろと思っていくうちに愛着をわき、


攻略サイトを漁り、目のクマがドス黒い色をし始めながら、


この2年アガアスにハマった。


気づけば、100を超えるステージをクリアし、他世界のプレイヤーと戦い。


占領した世界数によるプレイヤーランキングは2位まで上り詰めていた。


寝食を忘れて、何かに没頭したのは子供の頃以来かもしれない。


自分が攻略する内容と育成論については、動画で投稿し一部からは熱烈な支持を受けた。


あぁやっと自分で歯車を回すことができたのか。


今まで重い足がよく動く、自分の歯車が自分で回すことができるだけで、

こうロボットだとしても動きが変わる事に驚く。



ある日、アガアスヘいつも通りの時間にログインをすると、


PvPの挑戦が来ていた、基本上位ランクから下位へ挑戦する際は多くのリスクを伴う、

負けた場合に失うものが多いのだ。


しかし、下位から受けた挑戦に対しては負けたとしてそこまで失うことは無く、

逆に下位は勝てば莫大な報酬を手に入れられるので、定期的に挑戦する。


「ダイモーンか、」挑戦してきたプレイヤーネームを見つつ、


悪側のプレイヤーでランクは142位。


もちろん強い相手である、しかし自分には自信があった。


最上位メンバーではないが、相手にするには十分なキャラを選びOKを押す。


PvPの場合、挑戦された側がステージを選び、お互いが5名のキャラの中から王を決める。


勝利条件は、王が倒されるか、王を相手の指定した陣地内まで移動させる。


ステージ毎に、特色が変わりプレイヤーが今までクリアしてきた場所を選択することができる。


そのため、上位に位置するほど相手が指定したステージを占領している場合が多いため、

多種多様な場所を選ぶことができ有利になる。


「今回はここかな」


あまり名前を聞かないプレイヤーに対してよく選ぶ、初見殺しのステージを選ぶ。


東京の秋葉原を模したステージであり、

あるギミックを攻略しないと指定の陣地が現れない場所である。


「楽勝かな、この様子だと」


ある程度上位プレイヤーになると、キャラ同士で殺し合うことが減る。


それはお互いに育てたキャラが死ぬことの苦しさを知っていることもあるし、


陣地攻略の方が圧倒的にコスパが良いのだ。


そのため、今回も勝てると楽観視をしていた。


ラーダが恐慌状態になりました。

混乱しています。ステータスが30%下がりました。

さきとが恐慌状態になりました。

混乱しています。ステータスが30%下がりました。

レイが恐慌状態になりました。

混乱しています。ステータスが30%下がりました。


急にアナウンスが入る、自分のキャラが何かに恐怖を覚えてしまっている。

待て、待ておい、どう、、どうゆうことだよ。

どうしたんだよ。


ラーダが生を懇願しています。

ステータスが90%下がりました。

続けていくうちに、全く動けなくなったキャラが、

どうしてこうなった。


ラーダが死亡しました。

さきとが死亡しました。

レイが死亡しました。


死亡通知が流れ、You Lose の文字が目の前に表示される。


さっきまでは順調だった。


しかし、ものの数分で全キャラが死亡し、負けた。


椅子に座っているのに、膝から崩れ落ちそうになる。


負けたこともそうだが、何よりもキャラが死んだ事実を、


久しぶりに感じる背筋を伝う冷たい汗が、自我を取り戻す。


「すまない。皆、本当に、無能ですまない」

目を瞑りながら、伝えることしかできなかった。


コテンパンにやられてから数日、以前より慎重になった。


結局自分の慢心が招いたんだと、挑戦してきたダイモーンはあれから姿を見せていない、


上位勢に勝つことはもちろん珍しい話ではない、


だが一桁順位が負け、キャラが死んだことは多くの波紋を産んだ。


初期からいる古参勢は労いの言葉をかけてくれたが、

しかし娘、息子のように育てた子が死んだのと同じなのだ。


きっとこのゲームを昔からやっている人は理解できるだろう、周りがバカにしていたとしても。


「ポーーン」


電車がやってきた。


いつもとは違い、少し斜めに見える。


寝不足で、少しふらついたのか。


「きゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」


いや、背中から強い衝撃を感じる。


ゆっくりと光が走る中、仰向けに落ちていくクラゲが、

その目に衝撃の張本人を映す。


黒い人影が、白い歯をきわ出させる。


「誰だ、お前は」


「∫ø˚¨˙øµ´∂」

「あー、あー、すまない。わかるかな」

「よろしく頼んだよ、歯車は回り出した」


「ドッ、キューーー、ウーーーゥ」

「お、おい、誰か」

「ぎゃーーー、ぇう」



「おはよう。。」


「おはよう。。。」


「もう、そろそろ起きなさい!!」


ハッ、え、


「あなたは今召喚されたのよ、よろしくね小さな青豆さん」


「ほら、ぼーっとしないで、次が来るんだから、さっさと出なさい」


言われるがまま、案内される方へ歩みを進める。


目に差し込む、痛い、よく寝ていた気がする。


「どうやらまだ寝ているようだな」


案内された先は、バチカン美術館を彷彿とさせる優美で神々しい空間。


円状に広がった床は酷く冷たく感じる。


「いや、妙に冷たさがリアルに感じる」


とても広いこの空間に、遠くから響く声が聞こえる。


「どこなんだよ、ここは、お前が連れてきたのか」


「お前って、失礼じゃないかね。こちらこそ聞きたいくらいだ!」


「うわ〜〜〜〜〜ん、ぅう」


緑色に見える、あぁ、緑色だ。

変な冗談はやめてほしい。確かに、この夢は最悪そうだ。


「そこ!うるさい!黙りなさい!」


さっき起こされた声が聞こえる。


「うるせぇのはお前だ!てか何だお前は!」


「説明を聞きたくないなら、そのまましゃべっていなさい、童貞くん」


「うぉお、え、うるせー!!」


けん玉が浮いている。疲れているのか自分は。


そしてけん玉から妖艶なお姉さんの声が聞こえる。


さっきの緑は、照れくさそうに静かになった。


「皆さんは、マスターによって召喚されました。おめでとう!


これから、マスターである「12345」と一緒にこの世界を救うのです!


言うこと聞かないとお痛しちゃうからね!」


「・・・・・」


「質問が無いようだったら、このままステージに行ってもらうけどOK?」


「え、あの」


「はい、そこのおチビちゃん」


「すみません。ステージとは、世界を救うとは?」


「あぁ、一つずつ説明するわね。


ステージとは、点在する悪に飲まれた世界のことです。


そこでは私たちの敵となる生物たちが占拠しており、


私たちが淘汰されています。


それを救うのが私たちの使命です。」


「まぁ、ステージについては説明が難しいから飛び込んじゃいなさい〜」


この光景、この場所はさっきから既視感があった、いや緑達についても分かっていた。


そう、夢の中なら少しは楽しんでみるのも悪くないかな。


アガトン・アスヒモスの世界にいるんだな、自分は。



ーーーーーーーーーーー

インタビューメモ 02


ゴブリン族 アスト


「ぁあ、俺は童貞じゃねーっての」


「すまねー、ちょっと思い出しちまってよ」


「あいつは、なんかキモかったな、笑ってたんだよ」


「よくわからねー場所に来たと思って、俺焦ってたんだよ、そしたらよあいつは」


「なんか、チビのくせに、笑ってたんだよ、この状況でな」


「その時にちょっとだけな、ゾワっとしたんだよ」


記者

「怖かったんですか?」

アスト

「いや、ちげーよ、ちょっと寒かったんだよ。うるせー!」


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