第3話 俺の黒歴史③

 中学三年生の春、とうとう日本でダンジョンの一般公開が始まった。


 テレビはその話題で持ちきり。

 どこのダンジョンも人気テーマパークさながらの来場人数を記録していた。


 そして、俺の生活も変化が訪れた。

 黒服を着た坂井さんに突然、受験勉強をするように勧められた。


「我も流石に中学三年生に魔石の加工をさせるのはどうかと思ってな」


 俺はその言葉に反論するけど、諭すように両肩を掴まれた。


「我は高校受験をサボったから色々と後悔した。我も自分ができなかったことを君に押し付けるつもりはない。だが、我は勉強を頑張って、将来の選択肢を広げて欲しいと思っている。……親御さんにも悪いし」


 切ない顔をする坂井さんを見て、俺はたまに加工場に来ていいことを条件に勉強をすると約束した。


 早速塾に入り、放課後の大半が塾の課題と授業で埋まった。

 日曜日は授業も無いし、課題に追われることもないので加工場に行き、かっこいい武器を作ることにしていた。


 これまでに作った武器は30を超え、ダークネスという秘密結社は武器のブランド名として名を馳せていた。


 一度オークション会場に行ったことがあるけど、ダークネス出品の武器だと司会が言うと参加者は盛り上がり、落札競争も熾烈を極めていた。


 見ていて少し恥ずかしかったけど、評価されるのは嬉しかった。


 しかし、受験勉強が山場を迎える冬になると、武器作りに時間を割くことができなくなり、一つの武器に一ヶ月時間を掛けることもあった。


 二月になって私立の受験も終わり、公立の出願を控えてピリピリしている教室で、一人のクラスメイトに話しかけられた。


「土屋最近変わったよな」


 俺は単語帳を読む目をクラスメイトに向けるが、特に自覚がないから答えることができない。


「そうそう。授業中に突然、呼ばれている! とか言わなくなったし」


 別のクラスメイトが会話に参加する。


「そうだよな。落ち着いたというか厨二病卒業! みたいな?」


 他のクラスメイトも俺の行動を思い出して話し始める。

 それが教室全体に広がり、ピリピリした空気感はどこかに行き、俺の昔話で盛り上がる。


 俺は話題に出る行動や言動を一つずつ思い出していく。当時はかっこいいと思った行動。ミステリアスを醸す言動。

 受験勉強で魔石に関わる機会が少なくなり、冷静になった俺は気づいた。


 俺は厨二病だったのでは?


 そう思うと、中学一年生の時の魔石を買ってからの行動が全て恥ずかしくなり、頭を抱える。


 そこからは勉強に集中することで厨二病の件は頭の隅に追いやる。


 公立高校の出願先は誰も行かないような偏差値が高く、微妙に遠い場所にした。


 最後のラストスパートのおかげもあり、無事合格して卒業式も終えた。


 厨二病の痕跡になりそうなノートとかグッズは全てダンボールに詰め込んで押し入れの奥に入れて封印した。


 俺は春から高校生になるんだ。

 普通の高校生を目指す。


 中学校では全然しなかった友達と遊びに行くというのも毎日でもしてやる。

 お金ならある。


 違法な魔石の所持とか、その加工はもうしない。

 合法か分からないオークション会場にも行かない。

 まして秘密結社なんてもう関わらない。


 ……いや、お世話になったのは事実だし、最後に挨拶するか。


「坂井さん」


「土屋くんじゃないか。地下は……」


「いえ、ここで大丈夫です。今日は報告に来ました。彩雲高校に合格しまし——」


 言葉の途中で坂井さんに抱き寄せられる。


「おめでとう!! 良かった。本当に良かった」


 若干涙を浮かべながら、良かった、良かったと何度も呟く。


「坂井さん。離してください。恥ずかしいです」


 お客さんが少ない時間帯を狙って来たから店内にお客さんはいない。

 だけど、店員は仕事をしている。

 今もバイトの女子高生らしき子が顔を赤くしてこっちを見ている。


「あぁ、すまない。感極まってしまった。そうか、彩雲高校か。結構遠いな」


 目元を赤くしながらも、ゆっくりと離してくれる。


「知っているんですね」


「もちろんだ。土屋くんが高校受験するのだから、ある程度の高校は把握していて当然だ」


 地味に嬉しいことを言ってくれる。

 俺の両親が受験にはそこまで興味ない感じだから少し動揺してしまう。


「そ、そうですか。まぁ、坂井さんが言う通り遠いんです。だから、もうここには顔を出せなくなると思います」


 どんな言葉が返ってくるか、ビクビクしながら顔を俯く。


「寂しくなるな……」


 意外と驚きは少なく、むしろ悲しそうにしている。


「えっと、たまには顔を出すのでその時はまた話してもらえると嬉しいです」


「そうか、それは良かった。土屋くんのことは弟のように思ってるから、困ってることがあれば是非ここに来てくれ」


「はい」


 姉という存在は俺にはいないから、どう対応すればいいか分からない。


 だけど、彼女は俺の味方であるというのは分かった。

 最後に深くお辞儀をして、店を出て行った。


————————————————————

あとがき

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


次話から主人公が高校生になり、中学生時代の厨二病に苦しむ?ことになります。

あらすじやタイトルにある内容はここからが本番です。


ここまで読んで少しでも「面白かった」「続きが楽しみ」「ワクワクする」と思ってくれた方は★で評価していただけると嬉しいです。

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