侵入と実験開始
何度やっても魔法が使えない。
何故だ……! 肉体に私という細胞がいるからか……!?
森の中、手当り次第に虫を取り込みながら考える。
いやそれはおかしい。今まで様々な生物の力を取り込み再現してきたが、どれも完璧に再現できた。
それは遺伝子情報を正確にトレースしていたからで、このニンゲンの遺伝子も同じように再現している……!
遺伝子の再現は完璧なのに…………ま、まさか……!?
この星のニンゲンは、遺伝子情報以外の何かがあるというのか!
……面白い! 解明してやる!
ただ当面の目標は『あの集落に侵入すること』だ。
◆
集落に近づくと、何人かの大人が武器を持ってこっちに向かってきた。
「ま、待って! 私は平気だから…!」
「本当か!?」
「いや待て、魔獣が化けているかもしれん!」
「魔獣じゃないよ……! 正真正銘本物のヴァーデレ!」
「し、しかしだな……」
警戒が解けないな……なら。
「ほ、ほら魔法も使えるよ……!」
手から水が溢れた。
それを見た大人たちは安心した表情になった。
「無事だったんだな……疑って悪かった! プレーダが泣いて叫ぶもんだから……」
「ううん、大丈夫だよ。お父さん」
「うぅ、情けない父親ですまない」
「あはは……」
本当にな。
あれは森の川にあった水。体内に入れて運んできただけだ。
科学が進んでないところではこんなものか。
この星には魔獣と呼ばれる危険な生物が存在するらしく、しかしそれらは魔法を使えないらしい。
「もう、外には行かないでくれ」
「うん……ごめんね、お父さん」
◆
こうしてあっさりと集落に侵入した私は、ヴァーデレとして村で暮らすことになった。
魔法についての知識を得るために大人たちから話を聞き、不審に思われない程度に集落の仕事をこなす生活を続けていた。
私本来の力は、日常生活で動植物の遺伝子を取り込むことでほんの僅かに戻り始めている。
だが何度やっても魔法が使えない。
そしてもう一つ問題がある。
集落にある井戸へと水を汲みに来たら、先客がいた。
「っ!? く、来るな! 来たら撃つ!」
「ひ、ひどいよプレーダ……」
コイツだ。
恐らく私の正体に気が付いている。大人たちは私がヴァーデレだと信じきっているから、日常生活において何の支障もない。
しかしこの男……プレーダは私に攻撃してくる。
あれから魔法の火が物理現象の火と同じものであるということが判明したため、火自体は問題ないがトラブルは避けたい。
「お前ニセモノだろ……! 髪も目ももっと黒かっただろ……!? 俺のヴァーデレを返─」
「いいのか? 今返したら死体だぞ? 黙っていればこの体は返してやろう」
コイツに対しては隠し続ける意味もない。
「ほ、本当か!?」
「ああ。お前が大人になる頃には返そう。もちろん態度次第だがな」
「ぐっ……」
であるなら、いっその事ヴァーデレの体を人質にして黙らせる。
「安心しろ。ちゃんと返す」
「……わかった」
返す時はクローン体だがな。元々の細胞は残っていないわけだし。
◆
夜、皆が寝静まった集落で私は一人空から見下ろす。今の私は大きなイモムシの体に鳥の翼が生えたような姿だ。
この集落には人が少ない。
そのため得られる知識には限界があった。
半年ほど過ごして得た魔法への知識を纏める。
ひとつ、今の私には使えない。
ふたつ、遺伝子以外の何かが深く関わっている。
みっつ、魔力というものを消費しあらゆる現象を起こす。
よっつ、個人によって使える魔法が違う。
いつつ、魔獣に魔法は使えない
……こんなものか。
私が求めるべきはふたつ目だ。遺伝子以外の何かを見つけなくてはならない。
『魂』というものが存在するとでもいうのか? ……それをこれから調べるべきだな。
それでは……。
─どろり
体をドーム状に変形させ広げていく。
月明かりに照らされる私の体は美しく、この星を喰らうに相応しい水晶の如き輝きを放つ。
……ここでの生活は退屈だった。手に入る遺伝子情報に海の生物がいない事が何よりの不満だった。
虫などの動物から得られた力は少ない。それこそこの星に来る前までの状態とは比べ物にならないほどに。
魔獣とやらも結局手に入らずじまいだ。ま、これはこの後手に入れるからいい。
やがて集落が私の中に収まった。
内側にいくつかの突起が現れ、そこから毒の霧を噴射しドーム内を満たす。
これはムカデや蜘蛛の毒を混ぜ合わせ作り出したもので、効果は一時的な意識の消失。つまるところ麻酔のようなものだ。
これで準備は整った。
ドーム状の体を切り離し、イモムシの姿で地面に落下する。
最初はあの家にするか。
天井を突き破って侵入する。かなりの音が発生したが、住人はもちろん起きない。
トンボの羽で飛行し寝ているニンゲンの側まで移動、触手を目から突き刺し脳まで到達させる。
─ぐじゅ
ハリガネムシのように脳を操り、ニンゲンをニンゲンのまま操作する。
「外に出ろ」
「──」
大人の男が立ち上がり家から出て道の途中まで歩き、止まった。
「魔法を使え」
「──」
男は手を伸ばし魔法を使った……と思われる。霧が不自然な風の流れを受けたからだ。
……どっちだ? 単に空気を発生させ動かしたのか、それとも運動エネルギーの向きを変えたのか。
後者の場合は非常に役に立つのだが……。
魔法を使わせたままの手に向かって水を掛ける。
水はそのまま手に当たり、地面に落ちた。
前者か……だが、それでも無から空気を生み出すというのは十分魅力的だ。
面白い……! 実験を続けよう!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます