好奇心が止まらない

牙野 木奥

不時着と高笑い

 

いくつもの次元、星であらゆる生物を食い荒らし巡る。それが私、『侵略種:ヴェスティ・アニマル』だ。


あるひとつの星に近づいた時、私に攻撃があった。


初めて観測した全く未知のエネルギーによるビームだった。


ただのビームだったら簡単に躱す事ができた……が、そうはならなかった。


それには私の興味を強く惹き付ける何かがあった。私の生存本能を超えて行動を制限する何かが。


だから撃たれた。


私はどんな生物にも科学にも負けない。いや、負けたことがなかった。


初めて負け……そして誓った。


『この星にあるエネルギーを全て私のものにする』、と。


私は力を失いながら不時着した。



ドロドロに融解しているガラスのような小さな物体が、巨大なクレーターの中でウネウネと動く。


ここは……そうか、落下したのか……!


……ッ!? 全身が……痛む! 情報の9割を壊された……!!


肉体を再構築……しなくては!


─どろり……


ガラス状のに残った正常な細胞を集め、遺伝子情報を書き換えて新しい体に繋ぎ合わせた。


車輪の付いた芋虫のような15センチくらいの不格好な姿。


これが限界だと……? ……ふざけるな!!


「──!」



何か聞こえる……音だ。


機械と違って規則的ではない……なら、声か。


この体では満足に捕食を行えない……悔しいが撤退だ。


死んだ細胞たちを体を動かすエネルギーとして取り込み、四肢代わりの車輪を動かしてクレーターから離れる。


音から離れ、森へ入る。


この星は自然があって生物もいる……ひとまずは植物を捕食して新たな力を手に入れるか。



この星の植物は今まで食べてきたそれと対して変わりなかった。


いわゆる雑草。


特別な力を持つ花……例えば電撃を纏ったり、強い毒を持っていたり、油を出して自ら発火したり。そういう物が無い。


場所が悪いな。この気候も穏やかすぎる。植物はただのエネルギーにしかならないか……。


であれば、虫か。サイズは小さいが特別な力を持っているからな。


手頃な捕食対象を探すために周囲を観察する。


……百足だ!


車輪を変形させ細長く伸ばし、先端を突き刺して捕らえた。


お前の遺伝子を貰うぞ……!


暴れるムカデを口に入れ、噛み砕く。


─パキパキ……!


……ああ、美味い。


しかし、大きなイモムシが百足を捕食する……普通は逆だが私だからな。


百足の遺伝子情報を元に体の強度が少し上がり、毒を作り出す力を得た。



蜘蛛を食べながら移動してきたのは切り立った崖の上だった。


道を引き返すのを面倒に感じる間もなく、私はソレを見つけた。


そう……ニンゲンだ。


それも集落ごと。


まさかいるとは! ……だが、暫くは観察だ。


ヤツらは賢い。種族としての能力が高度な知能だ。


私も昔苦戦した記憶がある。何が厄介かといえば、高度な科学力だ。当たり前のように宇宙まで私を追って来た時は本当に驚いたし、レーザーを乱射してきてもっと驚いた。


勝ったがな。


草と土で体を隠しながら集落を観察する。


あのニンゲンたちの格好は……記憶に無いな。近いのは民族衣装のようだが。


……ふむ、科学兵器の類は無いか。しかしあのビームは確かにこの星から撃たれたわけだが……ここが田舎というだけか?


食えばわかるか。


集落から2人の幼い男女が出ていった。


丁度いい。あれにする。


車輪の変形と蜘蛛糸を組み合わせ、崖を降りていく。


この星でニンゲンはどんな地位なんだろうな?


「kkk!」


高笑いが止まらない。



「なぁヴァーデレ! 初めて見る虫だぜ!」


男がをしたショウリョウバッタを、女の前に差し出した。


「ひゃあ!? ちょ、ちょっとやめてよプレーダ……! やっぱりもう戻らない? 村から離れすぎだよ……」

「安心しろよ! 魔獣が出ても俺の魔法があれば余裕だからな!」

「でもぉ……」


どんどん森の奥に向かうプレーダと、渋々ながらに付いて歩くヴァーデレ。


「やっぱこの虫すごくねーか!? こんなきらきらした虫どこにもいねーよ! しかも全然動かない!」

「それは死んでるんじゃ……? でも、確かに宝石みたい……」

「ちょっと持ってみろよ!」

「えぇ!?」

「大丈夫だって! こいつ動かないから」

「わ、わかった……」


ヴァーデレが両手で器を作り、その中へを置いた。


どうも、一部が初めて見る虫です。


2人の先回りをして木の上で身を隠す私は、車輪を切り離して変形させ遠隔操作をすることで私の近くに2人を引き寄せることに成功した。


やるなら男だ。今の力では2人同時は厳しい。中途半端な攻撃では逃げられる可能性がある……かもしれない。


会話から推測するに、男は特別な能力を持っているに違いない。


魔法……と言っていたが、あのエネルギーと関係があるのだろうか?


欲しい……! 私の進化のために!


2人が私の真下に近づいてくる。


「『あまかけるりゅうは〜! そらをうがち〜!』」

「『くもを突き抜け〜……星まで届く〜……』」


……今ッ!!


「『ほしから蝶が─」

「! プレーダ!」


─ドスッ


男に変形させた四肢を突き刺そうとした瞬間、女が男を突き飛ばしたせいで女に刺さった。


頭と心臓に到達する。


何っ……くそっ、仕方ない!


力を入れすぎたせいで深く刺さって抜けない。……ので、そのまま女の体を貰うことにした。


体内へ侵入し遺伝子操作によって細胞を私に作り変えながら、同時進行で記憶を読み取っていく。


「いたっ!? 何すんだヴァー、デ……レ……?」


家族、食事、娯楽、そして好きな人。


どれも下らない記憶ばかりだが、この星での情報が手に入るなら……魔法……!?


な、なんだこの記憶は!? この体は至って普通のニンゲンのもので、特別な能力は無いはずだ!


何故、何も無い手のひらから水を出せる!?


深く記憶を読み取るためにこの女、いや、ヴァーデレの肉体を乗っ取る!


「や……やめろぉ!」


─ボウッ!


「っ!?」


コイツも無から火を!


飛んできた火を避けた。


そのままその火は草木へ燃え移る。


「一過性のモノじゃない……はは、はははっ! なるほど! それが魔法か! アーッハハハ!!」


高鳴る気分が抑えきれない!


「ヴァ、ヴァーデレが……!」


男が集落の方向へ走って逃げた。


「逃がすと思うか?」


記憶の通りに手を前に向け構える。


「どれ、私も魔法を……何?」



冷水を浴びせられたように頭が急激に冷えていく。


な、なぜ? どういうことだ?


私はこのヴァーデレの肉体を使い、記憶の通りに魔法を使おうと……。


っ、マズイ! 逃げられる!


…………ッ!! 何故!?


……撤退だ!

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