好奇心が止まらない
牙野 木奥
不時着と高笑い
いくつもの次元、星であらゆる生物を食い荒らし巡る。それが私、『侵略種:ヴェスティ・アニマル』だ。
あるひとつの星に近づいた時、私に攻撃があった。
初めて観測した全く未知のエネルギーによるビームだった。
ただのビームだったら簡単に躱す事ができた……が、そうはならなかった。
それには私の興味を強く惹き付ける何かがあった。私の生存本能を超えて行動を制限する何かが。
だから撃たれた。
私はどんな生物にも科学にも負けない。いや、負けたことがなかった。
初めて負け……そして誓った。
『この星にあるエネルギーを全て私のものにする』、と。
私は力を失いながら不時着した。
◆
ドロドロに融解しているガラスのような小さな物体が、巨大なクレーターの中でウネウネと動く。
ここは……そうか、落下したのか……!
……ッ!? 全身が……痛む! 情報の9割を壊された……!!
肉体を再構築……しなくては!
─どろり……
ガラス状の体に残った正常な細胞を集め、遺伝子情報を書き換えて新しい体に繋ぎ合わせた。
車輪の付いた芋虫のような15センチくらいの不格好な姿。
これが限界だと……? ……ふざけるな!!
「──!」
!
何か聞こえる……音だ。
機械と違って規則的ではない……なら、声か。
この体では満足に捕食を行えない……悔しいが撤退だ。
死んだ細胞たちを体を動かすエネルギーとして取り込み、四肢代わりの車輪を動かしてクレーターから離れる。
音から離れ、森へ入る。
この星は自然があって生物もいる……ひとまずは植物を捕食して新たな力を手に入れるか。
◆
この星の植物は今まで食べてきたそれと対して変わりなかった。
いわゆる雑草。
特別な力を持つ花……例えば電撃を纏ったり、強い毒を持っていたり、油を出して自ら発火したり。そういう物が無い。
場所が悪いな。この気候も穏やかすぎる。植物はただのエネルギーにしかならないか……。
であれば、虫か。サイズは小さいが特別な力を持っているからな。
手頃な捕食対象を探すために周囲を観察する。
……百足だ!
車輪を変形させ細長く伸ばし、先端を突き刺して捕らえた。
お前の遺伝子を貰うぞ……!
暴れるムカデを口に入れ、噛み砕く。
─パキパキ……!
……ああ、美味い。
しかし、大きなイモムシが百足を捕食する……普通は逆だが私だからな。
百足の遺伝子情報を元に体の強度が少し上がり、毒を作り出す力を得た。
◆
蜘蛛を食べながら移動してきたのは切り立った崖の上だった。
道を引き返すのを面倒に感じる間もなく、私はソレを見つけた。
そう……ニンゲンだ。
それも集落ごと。
まさかいるとは! ……だが、暫くは観察だ。
ヤツらは賢い。種族としての能力が高度な知能だ。
私も昔苦戦した記憶がある。何が厄介かといえば、高度な科学力だ。当たり前のように宇宙まで私を追って来た時は本当に驚いたし、レーザーを乱射してきてもっと驚いた。
勝ったがな。
草と土で体を隠しながら集落を観察する。
あのニンゲンたちの格好は……記憶に無いな。近いのは民族衣装のようだが。
……ふむ、科学兵器の類は無いか。しかしあのビームは確かにこの星から撃たれたわけだが……ここが田舎というだけか?
食えばわかるか。
集落から2人の幼い男女が出ていった。
丁度いい。あれにする。
車輪の変形と蜘蛛糸を組み合わせ、崖を降りていく。
この星でニンゲンはどんな地位なんだろうな?
「kkk!」
高笑いが止まらない。
◆
「なぁヴァーデレ! 初めて見る虫だぜ!」
男が青いガラスのような見た目をしたショウリョウバッタを、女の前に差し出した。
「ひゃあ!? ちょ、ちょっとやめてよプレーダ……! やっぱりもう戻らない? 村から離れすぎだよ……」
「安心しろよ! 魔獣が出ても俺の魔法があれば余裕だからな!」
「でもぉ……」
どんどん森の奥に向かうプレーダと、渋々ながらに付いて歩くヴァーデレ。
「やっぱこの虫すごくねーか!? こんなきらきらした虫どこにもいねーよ! しかも全然動かない!」
「それは死んでるんじゃ……? でも、確かに宝石みたい……」
「ちょっと持ってみろよ!」
「えぇ!?」
「大丈夫だって! こいつ動かないから」
「わ、わかった……」
ヴァーデレが両手で器を作り、その中へ私の右前方の車輪を置いた。
どうも、一部が初めて見る虫です。
2人の先回りをして木の上で身を隠す私は、車輪を切り離して変形させ遠隔操作をすることで私の近くに2人を引き寄せることに成功した。
やるなら男だ。今の力では2人同時は厳しい。中途半端な攻撃では逃げられる可能性がある……かもしれない。
会話から推測するに、男は特別な能力を持っているに違いない。
魔法……と言っていたが、あのエネルギーと関係があるのだろうか?
欲しい……! 私の進化のために!
2人が私の真下に近づいてくる。
「『あまかけるりゅうは〜! そらをうがち〜!』」
「『くもを突き抜け〜……星まで届く〜……』」
……今ッ!!
「『ほしから蝶が─」
「! プレーダ!」
─ドスッ
男に変形させた四肢を突き刺そうとした瞬間、女が男を突き飛ばしたせいで女に刺さった。
頭と心臓に到達する。
何っ……くそっ、仕方ない!
力を入れすぎたせいで深く刺さって抜けない。……ので、そのまま女の体を貰うことにした。
体内へ侵入し遺伝子操作によって細胞を私に作り変えながら、同時進行で記憶を読み取っていく。
「いたっ!? 何すんだヴァー、デ……レ……?」
家族、食事、娯楽、そして好きな人。
どれも下らない記憶ばかりだが、この星での情報が手に入るなら……魔法……!?
な、なんだこの記憶は!? この体は至って普通のニンゲンのもので、特別な能力は無いはずだ!
何故、何も無い手のひらから水を出せる!?
深く記憶を読み取るためにこの女、いや、ヴァーデレの肉体を乗っ取る!
「や……やめろぉ!」
─ボウッ!
「っ!?」
コイツも無から火を!
脚を動かして飛んできた火を避けた。
そのままその火は草木へ燃え移る。
「一過性のモノじゃない……はは、はははっ! なるほど! それが魔法か! アーッハハハ!!」
高鳴る気分が抑えきれない!
「ヴァ、ヴァーデレが……!」
男が集落の方向へ走って逃げた。
「逃がすと思うか?」
記憶の通りに手を前に向け構える。
「どれ、私も魔法を……何?」
撃てない。
冷水を浴びせられたように頭が急激に冷えていく。
な、なぜ? どういうことだ?
私はこのヴァーデレの肉体を使い、記憶の通りに魔法を使おうと……。
っ、マズイ! 逃げられる!
…………ッ!! 何故!?
……撤退だ!
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