第8話 竜種襲来
それは唐突に訪れた。夕暮れの首都〈レグナス〉は橙色に染まり、広場では子供たちが遊び、商人が露店を畳んでいた。だが空に赤黒い線が走った瞬間、平和は一瞬で崩れ去る。
轟音と共に空が裂け、黒鉄の鱗を纏った巨竜――竜種が現れた。全長数十メートル、燃え盛る溶岩の瞳、翼の一振りで衝撃波が街を薙ぎ払い、建物が崩れ落ちる。
人々の悲鳴は竜の咆哮に掻き消された。蓮は耳を押さえながら見上げ、胸の波が激しく震えるのを感じた。呼吸は乱れ、視界は赤黒に滲む。
境界守が即応した。アルマが結界を展開し、灰金の瞳で空を睨む。
「全隊、迎撃体勢! 封鎖範囲を最大に!」
ガランが巨刃を担ぎ、竜へと跳んだ。翼に斬撃が浴びせられるが、竜は怯まず黒炎を吐く。炎が街を呑み、石畳が赤く燃える。セラは修復術を必死に展開し、崩壊を繋ぎ止めるが、顔色は蒼白で震えていた。イオは符を刻み、冷静に解析する。
「主系波動、濃度過去最大! 七分以内に都市が呑まれる!」
蓮の耳に声が響く。竜の咆哮に混じり、確かに囁きがあった。
――おまえも、こちらに来い。
胸が焼け、足が前へ出る。ユリスが必死に腕を掴む。
「蓮! 駄目、行っちゃ!」
彼女の声に蓮は踏みとどまるが、竜の圧力は凄まじい。ガランの巨刃が竜の顎を叩き、軌道を逸らす。しかし竜は尾を振り、境界士が宙に弾かれ地面に叩きつけられる。
「修復班は後退! 戦闘班、押し込め!」
アルマの指揮は鋭いが、戦況は劣勢。竜の鱗は刃を弾き、黒炎は街を呑み、空は裂け続ける。市民は改竄された記憶の中で“地震だ”と混乱しているだけだ。
蓮の胸の波動が爆ぜ、竜の鼓動と同調する。意識が沈みかけたとき、ユリスの声が再び錨となった。
「蓮! あなたは人間だよ!」
その言葉で蓮は踏みとどまる。だが竜の瞳は確かに蓮を見据え、赤黒く燃え盛っていた。
戦場の轟音の中、蓮は悟る。――この戦いは境界守だけでは終わらない。自分の力が必ず関わるのだと。
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