第4話 波動の共鳴
### 第4話「波動の共鳴」
訓練場は石造りの円形闘技場のような造りだった。篠森蓮はその中央に立たされ、周囲を境界守たちが取り囲む。彼らの視線は疑念と警戒に満ち、わずかな油断もない。
アルマが腕を組み、冷ややかに命じる。
「力を示せ。――おまえが何者かを、確かめる」
蓮は息を呑んだ。拒否したかったが、逃げ場はない。背後でガランが巨刃を担ぎ、壁のように睨みつけている。セラだけが不安げに視線を送っていた。
イオが符を展開し、記録結晶を起動する。淡い光が蓮の全身を舐めるように走る。
「波動観測、開始」
そのとき、訓練場の上空が揺らいだ。赤黒い裂け目が薄く開き、影獣が一体、滲み出す。訓練中の境界守が慌てて武器を構えるが、アルマが片手を上げて制止する。
「好都合だ。篠森蓮、示せ」
影獣が這い寄る。喉の奥から擦れる音を立てながら、存在を削る穴を向ける。蓮の胸が熱を帯び、脈打つように疼く。視界が赤黒に濁り、耳鳴りの奥で声が囁いた。
――踏み出せば、壊せる。
足が勝手に動いた。手が知らぬ構えを取る。影獣が跳びかかった瞬間、蓮の腕が閃いた。赤黒い波が奔り、影獣の頭部を吹き飛ばしたのだ。まるで同じ波動を模倣するように。
境界守たちが息を呑む。セラが駆け寄りかけたが、アルマの視線がそれを止めた。イオは符に数値を記し、冷静に告げる。
「一致率七十二パーセント。――主系波動と同質」
蓮の腕は震えていた。恐怖か、それとも歓喜か分からない。自分の中の力が敵と繋がっている現実に、喉が渇く。
ガランが唸るように吐き捨てる。
「やはり、危険すぎる」
セラが必死に叫ぶ。
「でも彼は人間よ! 戦おうとしたの!」
アルマは沈黙したまま蓮を見据える。その灰金の瞳は氷のように冷たいが、どこかに測るような光があった。
「篠森蓮。おまえは人間か、崩壊の子か。――まだ、判じ難い」
その言葉は判決のように重く、蓮の胸を締め付けた。だが同時に、抗いがたい熱が心臓を打ち続けていた。
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