第3話

 どこをどう歩いたのか。よく覚えてないけど、とにかくあたしは無意識のうちに家に帰って、自分の部屋に入り電気もつけず床にぺたん、と座り込んだ。

 暖房の効いてない部屋は冷え冷えとしてた。

 だけど、その時のあたしは「部屋を暖めよう」なんて考え、思いつきもしなかった。


 (あれは・・・なんだったの??)

 (美奈が・・・壁に飲み込まれて)

 (あれはなに?・・・夢・・・?夢だったんじゃ)

 淡い緑色の光の渦の中へ、あたしに手を伸ばしながら消えていった美奈の表情が・・・目が、

頭から離れない。

 (美奈は・・・ほんとにどこかへ行ってしまったの?)

 (美奈・・・ほんとに消えちゃったの?!)

 もし。明け方になっても美奈が家に戻らなかったら、家の人はきっとクラスメート達に問い合わせるだろう。

 警察に捜索願を出すことも厭うまい。

 当然、あたしのところにも連絡が来るはずだ。

 だって、あたし達が仲いいことは、クラスの皆が知っていることだもの。


 だけど誰が信じてくれるっていうんだろう?

 あたしたちが見た、あのことを。あの白い壁で起こった、あのことを。

 光の中に、美奈が吸い込まれていきました、って?

 この目で見たあたしですら、いまだに信じられないっていうのに!!


 突然、美奈がいない、っていう寂しさが急にあたしの中にこみ上げてきた。

 いつも控えめだった美奈。

 おとなしくて、無口だった美奈。

 あたしの話をいつも、目をきらきらさせながら聞いてた美奈。

 女の子らしくて、クラスの男の子からは密かに人気があった美奈。


 (あたしが・・・あたしが「やってみよう」って言わなければ)

 (あたしが美奈を誘わなければ)

 (アタシガイイダシサエシナケレバコンナコトニハナラナカッタ)

 (美奈はあたしに手を伸ばして)

 (最後まであたしを信じてたのに)

 (あたしは美奈を置きざりにして)

 (ジブンダケニゲタ)

 (美奈を助けてあげられなかった)

 (全部・全部あたしが)

 (アタシガミンナワルインダ)

 

 今まで考えまいとしてたことが。逃げてた想いが。あたしに覆い被さってきた。

 両手を耳にあて、目をきつく閉じてあたしは小さく悲鳴を上げた。


~つづく~

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