剣士クレスティア
スパーダの鎧ごと霊体が切り裂かれ、それがエルクリッドにも反射し身体に傷がつき血が飛ぶ。
カード入れを使っての受け流しを咄嗟にするなど神業そのもの、やれたとしても些細なズレで失敗となり大きな痛手となり得る。
だがそれを彼女は、神はやってのけた。十二星召クレスの身体を借りて活動する創造神クレスティアの剣技にスパーダがよろめくも、すぐに持ち堪えて再度大剣を振り抜く。
が、今度はひらりと舞うようにクレスティアはその攻撃を避け、合わせるように迫るリオがカードを引き抜くのをしっかり確認してカードを抜いて備えていた。
「ツール使用ディバインアンクル!」
「スペル発動ツールアウト」
振り抜かれる霊剣アビスから放たれた光が弧を描く拘束具となるも、ツールアウトによって即座に消滅してしまう。だがリオは止まらずにさらに前へと進み、スパーダと挟み込む形で剣を振り抜きクレスティアを捉える。
勝負は決まった、かに見えたがクレスティアは口元に笑みを浮かべながらリオの剣は手に持った鞘で、スパーダの剣は神剣クレアーレで受け止めており、そのまま押し返すと自身の周囲に円を描くように剣を振って衝撃波を巻き起こし一気に二人を弾き飛ばす。
「スパーダさん! リオさん!」
「問題ありませんエルク」
「ええ、ですがこれ程とは……」
スパーダとリオは共に健在。だがクレスが繊細ながらも荒々しさがあったのに対し、クレスティアのそれは剛柔併せ持つ万能の剣技そのもの。
神の美技の前には驚くしかない、圧倒的すぎる相手と思える。しかしだからこそ付け入る部分はあるはずだと、エルクリッドとリオは冷静に分析を進めていく。
(あれだけの動きができたとしても、身体への負担がないわけではないはず。借りているなら尚の事、そしてその時間も有限……)
(魔力が多くなったとかはなさそうだから、剣をまた折れば倒せるはず……!)
リオが予想しエルクリッドが感じた事はクレスティア自身も自覚し、ずきずきと痛む身体や魔力の消耗などを感じていた。だがそれすらも喜びと、在りし日を思い返させるものとなりクレスティアは何処か満足そうに笑みを零す。
「素晴らしいですねお二人とも。決して折れぬ闘志に的確な判断力……油断も慢心もない、良い事です」
「ありがとうございます、って返しはしますけど、流石に容赦なさ過ぎてちょっと引いてますよ」
ふふっと悪戯な笑みでエルクリッドに応えたクレスティアは再び足を肩幅に開いて剣を下ろす構えを取り、仕切り直しといった様子で凛と佇む。
このまま逃げ回る事も作戦としては有効ではあるだろうが、それで勝つ事はエルクリッドにはなかった。先々の十二星召と相対する為に、勝つ為にもクレスティアを倒すというのは変えるわけにはいかない。
その思いはリオもよく理解し、一旦深呼吸をすると霊剣アビスを鞘に収めカードへ戻し、それにはクレスティアも少し目を細め警戒する様子を見せた。
「デュオサモン、ラン、リンドウ、共に戦うぞ!」
リオの次なるアセスは犬剣士のクー・シーのランと猫剣士のケット・シーのリンドウの二体同時召喚である。エルクリッドは一瞬、戦乙女ローズと比較し実力が劣る二体を出す事に驚くものの、考えなしにリオは動かないとも察しクレスティアを捉え直す。
「スパーダさん、まだ行ける?」
「幸い鎧そのものの破損は少ないので問題ありません。ですが鎧を脱ぐ選択はよほどの事がなければ避けるべきかと」
袈裟斬りに切られた鎧の傷は綺麗な線を描きクレスティアの剣技の正確さが窺える。言い換えれば正確故に無駄がなく鎧の破損も最小限で、霊体を切り避けるのもあり鎧の破壊をせずとも傷を負わせられる神剣クレアーレの特性に救われたと言える。
無論、クレスティアが次に同じように攻撃してくるとは限らない。鎧を脱ぐという奥の手も慎重に見定めて使う必要もあり、また、エルクリッドもここで己の中に眠る力を使うべきかを考えていた。
(あたしの力を使えば、クレスティアを止められる……かはわからない。でも、やってみる価値はある)
目を閉じて深呼吸をするエルクリッドに呼応するようにその身に潜むアスタルテが微笑み、静かに目を開くエルクリッドの瞳孔は細くなりカード入れが白い光を帯びる。それを見てからリオも前を向いてカードを引き抜き、ランも剣を抜きリンドウもため息混じりに剣を抜く。
「神様が相手たぁ、ずいぶん無理をさせるなリオちゃんよ?」
「そう言うなリンドウ。ローズではできない事を二人にはやってもらいたい、その為に呼び出した」
呆れ気味なリンドウがほう? とまぶたを上げながらリオに反応し、ランの方は何も言わずに一歩前へと出てクレスティアへ一礼し剣を構える。
デュオサモンをしてランとリンドウを出した事には意味がある、だがその真意は見えない。クレスティアもカードを引き抜きながら、心の中で少しずつ目覚めるクレスの思いを感じていた。
(わかっていますよクレス。あなたとしては自分の手で勝ってこそ……ですが今しばらくはこの身をお貸しください、この目で見て、肌で感じ、耳で聴き、香りを、空気を、心を、剣を通してこそより深く知れるのですから)
神剣クレアーレを振るう度に、地を駆ける度に、動く度に、身体を動かす度に、伝わり受け取れるものがある。
自分の実力を感じても尚も挑もうとする者達へ応えたいとクレスティアはその思いを滾らせ、剣を持つ手に力がいっそう入り素早く駆け出す足もまた軽やかに進む。
それに合わせるようにスパーダもまた力強く踏み込みながらクレスティアへ真っ向から挑みに行き、ランとリンドウが左右に走ると共にエルクリッドがカードを切った。
「いくよスパーダさん! スペル発動、エルトゥ・バインド!」
エルクリッドがよく通る声と共に発動するは白きカードのスペル。白き光の縄が幾つもカードより放たれクレスティアへと俊敏に向かい、それを見てクレスティアがすぐに急停止し後ろへ韻を刻むように下がりながら避け、あるいは切り裂き対応しその間にもスパーダは突き進む。
同時にクレスティアの左右を挟むように位置をとったランとリンドウがそれぞれ剣を構え、それに気づきつつクレスティアはカードを引き抜く。
「スペルブレイク、エッジストリーム!」
「スペル発動ティリス・ジス・レッスト!」
リオのスペルブレイクと共にランとリンドウが剣を振るうと旋風と共にいくつもの刃が放たれ、挟み込む形でクレスティアへと迫る。対するクレスティアは神剣クレアーレを力強く足下へ突き刺し、刹那に氷の華が咲き誇り花弁で己を包むようにしエッジストリームを防ぐと共に、スパーダの接近を遮ってみせた。
だがそれで止まらない事は、クレスティアもわかっておりすぐにクレアーレを引き抜くと花弁から飛び出しスパーダへと切りかかりに攻める。
「エルク!」
「ツール使用、決闘の鎖!」
スパーダの声を合図にエルクリッドがツールを使い、直後にクレスティアの左腕とスパーダの左腕とに鎖で繋がれた腕輪が装着され、スパーダがぐんっと左腕を引くとクレスティアの態勢が崩れ着地を余儀なくされた。
決闘の鎖はお互いを鎖付きの腕輪で繋ぎ切り合う為のもの。どちらかが倒れるまで戦い続ける呪具とも言え、その鎖を断ち切るのは不可能とされる。
しかし神剣たるクレアーレを持つクレスティアは躊躇いなく鎖を切ろうとするが、直前で止めてスパーダを捉えあえてそのまま戦う姿勢を示し、二人の剣士は静かに互いの剣の切っ先を合わせ決闘が始まった。
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