星彩の召喚札師Ⅹ

くいんもわ

夜に悩み

見守る立場から

 立場に縛られて動けないのか。


 立場を理由に縛るのか。


 本心は何処に。


 本音は何処に。



ーー


 水の国アンディーナ南部にあるキアズミの港町、その海上に浮かぶ十二星召リリルの城にて。

 夜更けも過ぎた頃に一人水平線の見える庭に一人出て佇むのは騎士リオである。月光を受け煌めく海は美しく穏やかに揺れ、夜風が心地良さをより伝えてくれるものだ。


 しかし、リオは浮かない顔で夜空を見上げながら庭の塀に手を置き、強く握り締めながら何かを思う。


(嫉妬……この私が……)


 数時間前に行われたエルクリッドとリリルの戦いは激戦をエルクリッドが制した形となり、全力の十二星召を撃破した事は大いに喜ばしいものだ。


 だが今、リオの心には仲間の活躍を喜ぶ事よりも、それ以上の嫉妬を自覚し微かな苛立ちを感じ強くなりつつあった。それはリリルと戦う前の神獣ウラナと戦った時により高みへ進みウラナを得たシェダに対しても、同じように羨望を向けていると。


(リオ、あなたは本当は……)


(言わないでくれローズ。わかっている、わかって、います……)


 心に語りかけてくるアセスのローズの言葉に即答しつつリオは歯を食い縛る。騎士という立場が本心を縛り付けている、それを捨ててしまえば楽になるというのもわかっているが、それをする事ができない事も。


 王国騎士として王から信頼され託された思いがある、それは裏切るわけにはいかない。半年前のネビュラの事件にて、彼に味方し反逆の騎士となったアルダ・ガイストの前例から、より騎士としての思いが強まったのもまた事実だ。


 個人の思いか、騎士の信念か、どうやって両方を貫くか迷う。そんなリオの悩む心は他のアセス達にも伝わり、ランは言葉を詰まらせリンドウも何かを言いかけるもあえて言わず、霊剣アビスは狸寝入りを決め込んで素知らぬふりをする。


 そんなリオの所へ気配なく静かに隣にやって来るのはタラゼド。不意に来た事もあって一瞬リオもびくっと身体が少し跳ねるが、すぐに微笑む彼と顔を合わせ小さく会釈し海の方に目を向けた。


「お悩みのようですね」


「恥ずかしながら、嫉妬をしています。エルクリッドとシェダの二人に……負けたくない、と」


 わかっていますとタラゼドは静かに答えつつリオの言葉を受け入れる。若き才能を持つのみならず、かつての仲間を彷彿させる姿はタラゼドにとっても思い入れは強くなるというもの。


 その影響が良い側面も、悪い側面も含めてあるということもまた。


 それを踏まえてタラゼドは少し考えて言葉を選び、想い悩むリオへある人物の名を口にし話題へ繋ぐ。


「レビアは他に何か言っていませんでしたか? 自分の代わりに見て来てほしいということ、それだけではなかったはずです」


「他の言葉、ですか? 王は特には……」


 その名は水の国アンディーナの王の名前。タラゼドにとってはかつての旅仲間でもある人物の名前で、リオは改めて謁見した時の事を振り返りつつ与えられた任務以外の言葉がなかったかを振り返る。


 王と話す機会など騎士であってもまず恵まれない、それ故に緊張していた事もあり聞き逃した可能性はあるとリオは感じ、その事が申し訳なく思いかけるもタラゼドが大丈夫ですよと優しく声をかけた。


「レビアはリオさんに自分の代わりに見届けてほしい以外の言葉も伝えていたはずです。彼は誰よりも人の心を理解する……リオさんの事もちゃんと把握して、相応の言葉を贈っているはずです」


「レビア様が、そんな……」


「わたくしには彼があなたへ言いそうな言葉に心当たりはありますが、それをわたくしから答えるのはレビアの意思に反しますからね。一度、肩の力を抜いてみてください、そうすればきっと見えてくるはずですよ、リオさんが本当にすべき事が……」


 よく知る者だから答えもまた見える、故にそれを言ってはならないともタラゼドは理解していた。

 そんな彼と話している内にリオの嫉妬もひとまず落ち着き、確かに何かもう一つ大切な事を言われたと思い出し、だがまだぼやけて見えない事に不甲斐なさも自覚する。


「騎士失格ですね。こんなでは……私は……」


「そう思えるなら、まだまだ伸び代はあるという事です。挫折し、悔しさを噛み締め、傷ついて……それでも前に進もうと思う事が、人を、リスナーを強くするのですから」


 弱音を吐くリオへタラゼドは静かに優しく背中を押すように言葉を贈り、それはリオの中の迷いをかき消すには十分すぎるものだった。

 まだ答えは見えない、でも進むしかない。きっとそれはエルクリッド達も同じと思えたのも彼女達と共にいるからと、それだけは間違いなく、嫉妬も受け入れられる。


 見守る立場であるから苦しむ事もあれば思うものもある、それがきっかけで新たな道を切り開けることもまた。

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