29話 モブの一番の理解者?
心が締め付けられた。心が苦しい。
少年は、ただ家族の幸福を願っていた。
なのに……子猫を庇い家族の幸福だけを願った
少年を殺した。あんな少年は、きっとこの先……
産まれてくることは、ないんじゃないか………
そう思ってしまう。
だってあんなに誰かの心を暖かく出来る人に出会った事は一度もない。
私の心には、確かに残った。
家族は、拾った猫だけだと思って居た………
それでいいと思って居た。
でも、私の中で少しだけ変わった。
少年は、きっと私を理解してくれる。
少年は、きっと私を不気味だなんて言わない。
そして、私も少年を理解した。
少年がどこまでもお人好しと言うことを知った。
何よりも家族を大切にしている事も。
そして、最後の最後、夢を見た。
それ以降夢を見ることも急に頭が痛くなる事もなくなった。
夢の中に猫が現れたのだ。
「猫ちゃん?」
私は、思わず声を出した。出せてしまった。
今までの夢は、声を出す事は、出来なくて
一方的に映像を見せられるだけだった。
だから、驚いてしまったのだ。
「あの……もしかして貴方が今まで夢や映像を?」
聞かずには、居られなかった。
少年が死んだタイミングで別の人物だけが私の前に
居るのだ、それ以外にありえなかった。
それは、予想通りだった。
「そうにゃん。あたちがやったにゃん。」
「何故、あの映像を私に?」
「正直に言うとにゃ、たまたまだったのにゃ。
あたちが強く願いその思いが通じたのにゃ
貴方だったのにゃん。」
「そう……何ですね。
何を願ったのか聞いてもいいのでしょうか?」
「別に構わないのにゃ。英二様が家族の幸福を願った様にあたちも英二様の幸福を願っただけにゃ。」
英二……様?
「もしかしてあの少年の……名前。」
「そうにゃん。」
真っ白な綺麗な子猫は、嬉しそうに頷いた。
「では、貴方は、少年に助けられた」
「そうにゃん……救われたにゃ。
だから……英二様を今度は、救いたいにゃ
あの……どこまでも人の為に行動出来るお方を。
「でも……もう少年は。」
「そうにゃ。あたちの世界には、もういないニャ。
「じゃあ……どう……やって?」
居ない人間をどうやって救うのだろうか?
そもそもの話だが、恐らくこの世界の住人ではない。見たことのない街だった。
世界の一部すら私は、知らないがこれは、私の勘だ。けど、合っているような気がした。
だから、続けてこう聞いた。
「多分……だけど……別の世界に居るんだよね?」
「……そうにゃ。確かに英二様は、そっちの世界には、居ない。けどにゃ……英二様の魂は、ちゃんと
あるにゃ。」
魂?どう言う事なんだろう。
「魂って?」
「真田……………………魁斗………様」
「真田………魁斗?」
「そうにゃ。あのお方は次の人生を授かったにゃ。
そして…そっちの世界にいるにゃん。
だから、貴方と繋がったにゃ。」
「そう……何ですね。
あの……少年が私の世界に……………。」
「そうにゃ。だから……お願いだにゃん。
貴方にしか頼めないにゃん。
どこまでも人の為に何でもしてしまうあの生き方を
笑わず、真剣に、そして暖かくなってくれた貴方にしか頼めないのにゃ!」
私の心を暖かくしてくれる存在。
「分かったよ、必ず、絶対に守るから!」
私は、目尻に涙を浮かべて強く拳を握る。
「きっと……あの人は、私だけじゃない。
様々な闇を抱えている人の心を照らしてくれる。
皆のヒーローになれる存在。
だから、そんな人を失う訳には、行かないんだ!
私の心を照らしてくれるヒーローを守る。
「………だから……見てて!
必ず幸せにする。貴方のヒーローを。
私のヒーローを!
「ずっと………見守ってるにゃ。」
そう言って嬉しそうに目を細めた。
「皆で……皆のヒーローの活躍を」
そう子猫が言った時だった。
子猫の周りから光が溢れ出した。
思わず私は、目を瞑ってしまった。
光が収まっていき目を開けると。
「こ……れ……は?」
そこには、大量の動物が居たのだ。
「あたち達は、そっちには、干渉は出来ないにゃ。
けど、皆のヒーローを見守る事は、出来るにゃ。」
「あの……一体これは?」
私は、目の前で何が起きてるのか分からず聞いた。
「ヒーローに心を照らされたものにゃ。
ヒーローに命を救われたものにゃ。」
後に控えていた動物達が力強く頷いた。
そして、子猫の前に一匹のクマが来た。
「俺は………人間の里に行きたかった訳じゃない。
でも……人間が森を伐採し食料も人間達が
持って行ってしまった。キノコ採取、魚釣り。
俺にも家族が居た、だから仕方なく森以外の場所を探したんだ。そしたら、人間達が石を投げてきた。
俺も人間に危害を加えるつもりなんてなかった。
でも……せめて子供達には、お腹を満たしてあげたかった、でも……帰るしかなくて。
逃げる途中も人間達が悲鳴をあげて石を投げたり
して来た。
そんな時だ………まだ、7歳にも満たない小さな子供が袋に野菜を詰めて俺にこう言ったんだ。
「もし良かったら食べて?」
笑顔でそう言ってきた。
正直馬鹿何じゃないかと思った。
自分で言うのも何だが俺は、熊だ。
俺の同族の中には、実際に人を食った者も居た。
だから、俺達が恐れられているのも仕方ない。
なのに、目の前の子供は、笑顔で渡してきた。
まだ……子供だ、何も知らないのかも知れない。
このままだと、いつかこの子供は、痛い目を見る。
事件が起きてからでは、遅い。
だから、牙を剥き出しにして咆哮をあげようとした。だけど……見たんだよ。
顔を強張らせて、足を震わせて、でも……笑顔で。
だから……頼む。あの……子供を救ってくれ。
力になってくれ!」
そう……深く頭を下げて来た。
その後に続いて後に居た動物達も頭を下げた。
あぁ……少年は、これだけの動物達を救ったんだ。
信じられない光景だった。でも、事実なんだ。
だったら救う。力になる。
私の全身全霊をかけてヒーローの力に。
そう……強く願った時だった。
また、動物達が光に包まれた。
眩しくてまた、目を瞑った。
次に開けた時には、もう、ベッドの上に居た。
でも…最後に皆の思いが……私の思いが一つの
塊になった気がした。
【英雄を讃えろ】
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