フェンリルと金華猫、時々スライム

「一成!一成!」


わふわふと俺を前脚で抱え込み、鼻先を頬に擦り寄せてくる巨大ウルフドッグ白ハスキーこと、フェンリルになったブラン。

もうこうなると、凛々しいフェンリルというよりただのバカデカい犬である。

ちなみに、立派なしっぽもめちゃくちゃ勢いよくブォンブォン振られている。

あ、スライム達が風圧で転がされて遊んでる……。


「まったくもー、ゴメンね?カズ。

ブランの奴、カズが消えてめちゃくちゃうろたえてたから……。」


その様子を若干呆れ混じりながらも、気持ち的に同じ部分もあるのだろう猫耳シッポ美少年になったミアが嘆息しつつ見守っている。


それ自体は構わないのだが。


「まあ、いきなり消えた俺も悪いし……。

ミアもブランも心配してくれてありがとうな。

で、コア、どーすんのこれ。」


そう、俺がブランに抱え込まれた事により物理的に身動きが取れなくなったのだ。

ちなみに、部屋の広さはさらっとコアが拡張してたのでみちみちにはなっていない。

あと、ブランに舐め回されてヨダレでべとべとにされたのはスライム達が綺麗にしてくれた。

スライム達、賢くて便利でえらい。


『そうですね。とりあえず、貴方はしばらくお2人と旧交を温めておいてください。

これからする作業は、人間の迎撃計画になりますし、今の貴方をその輪に加えると殺意マシマシのトラップとか悪気なく出てきそうなので。

ブラン、ミア。カザナリの事は任せました。今日は仕事をさせないでとにかく遊んで貰ってください。』


仕事を、させない……だと……!?


「だーめ!」

思わず立ち上がりそうになった俺を押さえつけるように、ブランが頭の上に顎を載せてくる。


「カズ、だめだよ。せっかくお休みしていいって言ってくれてるんだし、僕らとあそぼ?」


更にはミアまであざとくキラキラした目でおねだりをしてくる始末。

くっ……!俺がミアのおねだりに弱いのをしっかりと理解していやがる……!(お猫様とお犬様の下僕)


「一成、わーかーほりっく?って奴になってるでしょ。

お仕事しないと死んじゃうってくらいに気持ちが追い詰められちゃってるんだから。」


ブランまで、頭に載せた下顎を起点に更に体重をかけてくる

やめろォ!今のブランの体重でやられたら俺の首が死ぬぅ!


……あぁ、でも、ブランとミアにまた会えて良かった。

こうして一緒に居られるようになるなんて考えたことも無かったな。


そう考えていたら、ぽろり、と。


「え……あれ……?」


何故かぼろぼろと溢れる涙。

どうして。


悲しい訳でも、苦しいわけでもないのに。


「大丈夫だよ、一成。」

「これからはカズのお兄ちゃんの僕たちも一緒にいるから。

泣いたって良いんだよ。」


ブランとミアの温かさに、ぼろぼろ溢れる涙が止まらない。

声こそ堪えているけれど、良い歳してまるで感情を制御できない子供の様に涙が溢れて止まらない。


「……ふっ、くっ、ぅぅぅ……!」


ブランの前脚に額を押し付けるようにしてうずくまり、溢れる涙に毛皮を濡らされてもブランは

「大丈夫。これからはボクもミアも一緒だから。」と背中に鼻先を擦り付けてくる。


ーーそうだ。幼い頃に出自のせいで虐められて、でもじーちゃんばーちゃんには心配かけたくなくて言えなくて。

ブランの犬小屋の影で一人声を殺して泣いていた時と同じように。

ただ、そっと隣に寄り添ってくれて。


変わらない温もりに、また涙が溢れる。


「ブラン……ミア……ありがとう……。

ずっと、見守って、くれてたんだよな……。」


「当然でしょ?カズみたいに、甘え下手な上に内に溜め込む弟なんて心配でしょうがないよ。」

「一成、本当に苦しい時こそ我慢しちゃうんだもん。いつ壊れちゃわないかヒヤヒヤしてたんだよ?」


わしゃわしゃと俺の頭を撫でるミアに、そっと逃がさないように俺をきっちり前脚で抱えるブラン。

大型犬特有のちょっとごわついたような毛質も今はただ懐かしくて。

冬毛になったらきっとふわふわになるんだろうな。


昔、冬毛でふわふわになったブランの背中を枕にしてうたた寝した記憶が蘇る。

あの時は目が覚めたら、ちゃっかりミアも俺の腹の所に丸くなって、結局は三人でそのままがっつり昼寝したっけ。


ーー


『私がそうしろって言いましたが、実にイチャついてますねぇ……。』


「そうなの?ところで、このタブレットってやつ便利ね。

私は決定押せないけど、カタログ見るだけなら出来るし。」


「カザナリ、ご飯食べさせる。

俺、料理得意。任せろ。」


『それなら、幾らか食材購入用に使えるポイントをガルに預けておきますね。

一部のスライムは近隣の野生動物のお肉を狩りにダンジョン外に出ているようですが、まあエリートスライム以上ですから大丈夫でしょう。』


「!任せろ!カザナリ、味覚戻る、美味しい、言わせる!」


とりあえず、偽装ダンジョン側の罠や野良魔物誘引の準備は整っていますし、これで一区切りついたと言えるでしょう。


それにしても、いかにもパワータイプと言った体躯のガルがエプロンをして生き生きと調理をしているのを見ると、死神という存在に疑問が湧きそうになりますね……。

おそらくは生前の記憶や個体差なのでしょうけれど。


「ーガルはね、元々聖騎士団長だったのよ。

私は元聖女。

色々あって政争に負けちゃって、瀕死の状態で夜闇に紛れてここに捨てられたの。」


不意に、メリィが語る過去は中々にこちらも闇が深いもので。


『理解不能です。人間は、一時の欲の為に容易く同族を手にかける。

……実に愚かです。』


そんな話を聞きながら、今後のダンジョン運営方針について私とメリィは語り合うのだった。


ーーーーーー

あとがき

メリィとガルの過去(生前)について知りたい読者さんとか居ますかね?


ガルとメリィ、生前のフルネームとか2つ名とかを考えてあったりします。


ちなみに普通はマーダーレイス(死神)になった時点で、大体の人間は人間だった頃の記憶が消えちゃいます。

霊体になるので脳みそ物理的に消えますから。


ただ、メリィやガルのように強い魂には記憶も焼き付いていることがあり、強ければ強いだけ焼き付く記憶も多くなります。

メリィは当時最高峰の力を持った聖女だったのでほぼ記憶残ってますし、ガルは聖騎士団長として高い実力と気高い魂を備えていたので、断片的ではありますが料理好きだったり部下の面倒見が良かったりと記憶が残っていますが、死因については覚えていません。

メリィは覚えていますが、必要でないなら話しません。


どこの世界にも、どの時代にも、嫉妬と欲望で他者を害する者はいるのです。

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