カザナリの守護者と魂の絆

「……提案?」


コアの真剣な様子に、思わずこちらも背筋を伸ばす。


『はい。

まず、カザナリ、貴方の魂はあまりにも弱って今にも砕けてしまいそうな程に傷ついています。』


「んー……まあそうかもな。」


ストレス性の味覚障害に、不眠という睡眠障害。

極めつけは健康診断で言われた胃潰瘍。要再検査とは言われたけど、そのための有給すら取らせて貰えないので穴くらい空いてても不思議はないだろうと、他人事のように思ってはいる。


『ただ、貴方を守ろうとする魂の繋がりも切れてはいません。

世界を超えてまで、その繋がりはまだ繋がっています。』


……うん?


『ですので、貴方のパスケースに入っている家族写真を少し貸してください。』


ううん?


「家族写真って……じーちゃんばーちゃんと、ブランとミアと写ってるやつの事か?」


一般的な家族写真に該当するのはそれくらいしかないし、せめてもの形見としてラミネート保護して持ち歩いてはいたけど……。


『はい。その通りです。

今最優先すべきは、貴方の魂の保護と修復。

その為に、《守護者創造》と貴方を守ろうとする繋がりを利用して、貴方を守る為の存在を生成します。』


「貸すのは問題ないが……。

最優先事項が俺???」


思わず宇宙猫みたいな顔になったぞ?

しかし、コアは真剣なまま。


『カザナリ、貴方は自分で思うより傷だらけなんです。

貴方を最優先で護れる守護者が必要な程に。

貴方の悪夢から生成されたダンジョンポイントを使えばそれが可能ですし、その写真を媒介すれば、今ならまだ無理をしてでも貴方を守ろうとしている存在をこちらに引き寄せられるだけの縁を結べる。


……おそらく、貴方の言うブランとミアの魂かと思います。

ただ純粋に、辛い時に辛いと吐き出せない不器用な自分の弟分を護りたいという願いが伝わってくるんです。

ただ、今はかなり無理をして貴方の魂と自分を繋げている。

このままでは力を使い果たして消滅してしまうでしょう。』


「ー!?」


ブランとミアが消えてしまうと聞いて、俺の迷いや疑問は霧散した。

あの子達は大事な兄のようなものだから。

自分の為に無茶をしたせいで消えて欲しくなんかあるわけが無いだろう?


「……分かった。取ってくるからちょっと待っててくれ。」


そう言ってビジネスバッグを取りに行こうとした俺を、スライム達がつんつんとつつく。


「悪い今……は……?」


そちらに目をやると、ずいっと差し出されたのは今取りに行こうとしていたビジネスバッグ。


「取ってきて、くれたのか?

……ありがとうな。」


ビジネスバッグを支えるスライムの触腕を軽く撫でてバッグを受け取り、中に入れていたパスケースからラミネート加工した写真を取り出す。


「コア、これでいいんだよな。」


『はい。ではそのまま、タブレットでもスマホでも構いませんから、ダンジョン管理アプリより《守護者創造》のメニューをタップしてください。

実際の術式行使については私がサポートしますので、貴方はどうか、ブランとミアを思ってアプリ操作を。

二体分でやって頂いて構いませんので、お願いします。』


「あ、あぁ……。」


幽霊のような姿のコアに写真を渡し、促されるままにタブレットから画面操作を行う。


《守護者創造》のメニューをタップする時に、ブランとミアにまた会いたいと強く思いながら、画面に触れる。


『……《守護者創造》メニュー、2体実施申請を確認。

マスター、カザナリによる祈りを認識。

魂縁こえん特定媒体を確認。

……異界より魂の引き寄せ成功。

守護者属性、確定。

守護者受肉種族、確定。

実体化シークエンス続行。』


コアの声が響くのに合わせて、辺りの空間にバチバチと青白い雷が走る。

魔法陣のように、床の一部が丸く輝きそこに雷と……魔力なのか?目に見えない何かが集まり渦を巻いているのが解る。


「うっわ……すごいエネルギーが集まってる……。

これ、伝説級の魔物で受肉したりしないわよね?」


後ろでメリィがつぶやくのが聞こえたが……。

メリィよ、それはフラグって言うんだぞ……。


次第に光も雷も落ち着いていき、再びコアの声が響く。


『ー《守護者創造》全シークエンス、完了。

告知。

受肉体情報を連携します。

魂個体名・ブラン。種族はフェンリルにて受肉。

魂個体名・ミア。種族は金華猫にて受肉。』


収束した光の消えた後にそこに居たのは、白いハスキーっぽさもある大きな狼と、猫耳に三毛の二股尻尾を生やした少年。


「んん……ここは?」

「しっかりしなよ!ブラン!

僕ら、一成の所に来れたんだよ!」


大きな体躯に似合わずぽやっとした様子の狼を、三毛猫少年がべしべしと叩く。


「ブラン……に、ミア……?」


俺の声に、一人と一匹が振り返り……。


「「一成!」」

「うわっ!?」


一斉に飛び付いてきた!

ミアらしき少年はさておき、ブランらしき狼は受け止めらんないって!

ミアを受け止めて、更にブランに押し倒された俺を、素早くスライム達がキャッチしてくれたお陰で後頭部を強かぶつける事にはならずに済んだけれど。


「一成!一成だ!急に消えちゃったからびっくりしたよ!」


「うぶっ!わぶっ!」


ブランにめちゃくちゃ顔を舐め回され大変なことになっている所に、


「一成無事で良かったよ!」

と、猫耳少年になったミアが胸元に頭をぐりぐり押し付けてくる。


この行動は確かに生前のブランとミアそのものなんだけど……!


「コ、コア!助け……うぶぇっ!」


この後、フェンリルになったブランと金華猫という猫耳少年になったミアにめちゃくちゃにされた。

あと、メリィはブランとミアがこっち見た瞬間に逃げてた。おのれ。


ーーーーーー

あとがき

メリィ、無事にフラグ建築&即回収です。


フェンリルになったブランはやろうと思えばカザナリを背に載せれるくらいデカイ精悍さを増して狼寄りになった白いハスキーですし、金華猫になったミアは猫に変化も出来ますが基本は三毛猫耳尻尾の中性的な美少年です。

そんな一人と一匹にもみくちゃのめちゃくちゃ(健全)にされる冴えない青年の図です。

カザナリも、元は悪くない原石なので磨けば光るんですよ!

今までは磨く余裕もそんな思考も無かっただけなので……。


さて、カザナリの心の拠り所が物理的に現れた事で今後どうなるのか……。

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