第1話 第一異世界人との遭遇
とりあえず、今太陽が真上から少し傾いた位置にあるので、向きを確認したあと、概ね背を向けるようにして歩き出す。
……本当にこれでいいのか怪しいが、取り敢えず御礼で連れてきて野垂れ死にさせるようなことはない……と信じるしかない。
草原を言われたとおりに歩いていると――進む先に人や馬車が歩くことでできたような道が見えた。
自分から見て斜めだったので、たぶん方角的にズレていたけど概ね合っているということで間違いないだろう。
などと思ってると、推定西から荷馬車の姿。
そしてその御者席には人間の頭サイズの犬の頭が乗った人……おそらく異世界あるあるな獣人が座っていた。
その姿に目を奪われていると、荷馬車が傍まで来ていた。
「おや、旅の方、こんなところで立ち往生ですかな?」
やはり犬の獣人だろう。
声は穏やかな老人のソレで、なんかホッとする。
っと、いかんいかん、返事しないと……。
「あ、いえ。絵になるような景色と荷馬車の対比だなって」
「景色……あぁ、画家さんでしたか。見たところ街に向かうところですかな? ……街までそこそこありますが、乗っていきますかね?」
「筆は永らく握ってませんので画家ではありません。ただの根無し草です。同乗の提案は……良いのですか?」
最後に絵を描いたのは高校の選択授業だったからな……嘘はいっていない。
「ここであったのも何かの縁。それに悪意も感じられませんからな」
悪意感じられるのか……この人。
「こちらにどうぞ。それか手狭ですが荷台に乗りますか?」
「では御者席の横を失礼します」
少し横にズレてくれたご老人の横に座ると、ご老人は馬の歩みを再開させる。
「おっと、自己紹介まだでしたな。私はホウンと申します。風のゆくまま気のゆくまま各地を巡る獣人で今は商人をしております」
今は……ねぇ。
「自分は九條恭介。キョウスケが名前で、クジョウが家の名前です」
「おや、お貴族様でしたか。平民が失礼を……」
どうやら家名持ち≒貴族らしい。
家名は名乗らない方が面倒少ない……かな。
「いや、没落して家名を後生大事にしてる落ちぶれものだし、実質平民なので……」
盛者必衰諸行無常はどの世界にもありうるだろうしこれで押し通せるはず……。
「……薄着ですがここらでは見慣れぬ質の良い服に身を包み、家名を名乗っておられると、没落したかはともかく、貴族と思われてもおかしくありませぬなぁ」
普通のTシャツに長ズボンとスニーカーなんだが……
うん、剣と魔法の時代っぽいこの世界だと明らかに浮いてるな!
ホウンさんの服はまさに中世の人って感じするし(知識+語彙力不足)
「貴族と崇められてあとから没落してるのにえらそうにしてたと袋叩きされたくないから、家名は名乗らないことにしますよ」
「それが良いかと。まあ、私のように、鼻が利く者なら、服を変えても体から漂う匂いから平民以上の生活してると思われてもおかしくないですがね」
漂う匂い……?
……あっ、ボディソープとかシャンプー、コンディショナーとかの匂いだろうか……。
匂いだけなら数日すればわからなくなる……かな……?
でもこの服だと良いところの人ってバレるなら……。
そっと袋に手を入れ、脳裏に浮かぶ手持ちの中から(数百枚あるから口止め料込みで)金貨を数枚取り出す。
「……ホウンさん」
「なんですかな?」
「オレが着られるような服ってあります?靴や諸々込みで2〜3セット買いたいんですが……」
オレが金貨を差し出すと、少し考えるような素振りを見せた。
「ふむ……古着でよければ靴2足に下着含めて服の上下3着ずつ用立てましょう。対価はそうですな……高い口止め料込みとして金貨1枚もらいましょうか。コレだけで1月はゆうに暮らせますからね」
この人聖人過ぎない?
オレが金銭感覚もない訳ありって判断した上でしれっと会話に常識を差し込んで社会勉強させてくれてるし。
「ホウンさんにお任せします。だまされたならそれまでです」
「人が良すぎるのか、俗世の金銭感覚を知らぬまま旅されてるのか、大事に育てられたのか分かりませぬが……鵜呑みにしてたら良いようにされますぞ」
開き直ったオレの様子に少し呆れ気味にホウンさんはこぼした。
予告通り1枚だけ金貨を受け取ると馬の手綱をオレに渡し、荷台に入っていく。
「……長閑だな、ここ」
「この草原一帯は何故か魔獣等が立ち入りませぬし、田舎のため行商も珍しく盗賊の生計もままならぬので、大陸で有数の護衛要らずとして知られてます。っと、服を出しましたので中で着替えてみてくださいな」
なにそれすごい。
そう思いつつ手綱を渡して荷台に入る。
箱がところ狭しと積み上げられている中に革の靴が2足、下着?と服の上下が3セットずつとローブが一着あった。
試行錯誤してると外から声がした。
「街が見えてきましたよ」
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