向こうとこっちの二重生活 異世界Side

黒川貞兼

プロローグ 数奇なスタートのきっかけは猫

――今日も上司の理不尽に振り回されて疲れた……。


オレは九條恭介。

元教育係で現上司に難癖つけられて仕事の手直しさせられているしがない30弱のいわゆるアラサーだ。


21時過ぎた帰り道、トボトボと帰宅しながら思う。


――自分は自分の思うほど優秀ではない、と。


まあ何処にでもあるよくある話だろう。


そんなふうに思っていると、にゃ〜〜お、にゃ〜~おと鳴き声が近くの茂みから聞こえる。


猫が好きで、猫がトラバサミみたいなのに挟まれてるのを目撃して助けたことがあったため、反射的に茂みに踏み込んでしまう。


茂みに何がいるか分からないのにと思ったが後の祭り。


最も茂みの先に薄汚れた灰色の猫以外いなかったのでヨシとしよう。


「汚れてるな……おっと?」


逃げないでこちらをじっと見てる猫に対して膝折って手を伸ばすと――。


なぜかオレの腕に飛び乗って、器用にオレの両肩に前足と後ろ足それぞれ置いてオレに乗りかかってきた。


スーツに泥が!(手遅れ)


「……えっ? コレもしかして……家につれてけってパターン?」


「なーお」


なんか肯定的返答されたので、いっそ諦めてそのまま帰ることに。


ペット可な賃貸で本当に良かった……カリカリと猫砂買わなきゃ(使命感)




なお首輪は付いてたけど、医者に見せたところマイクロチップがなかったから、飼い猫かつ3歳以上なのかもしれない……。




そんなこんなで猫の世話と仕事の生活していたら、休日のある日チャイムがなった。


開いてみると、そこには黒と白という真反対な色の髪や服装の美女2人がたっていた。


「ここに猫、いませんか?」「灰色の猫……いるはずです」


「もしかして、飼い主さん?」


「そう」「いなくなってて探し回った」


2人の声に反応したのか、玄関に近寄らなかった猫がドアの隙間から抜け出て2人の足元に体を擦り付けてゴロゴロ喉を鳴らし始めた。


「……よかった」「お礼したい」


「え?お礼なんてそんな……」


とは言いつつ、お金もらえれば儲けもの、いい出会いとかそういうのがあるなら〜と思ってしまう。


異世界転移……と思ったが、普通の美女っぽいから言ったら引かれるだろうか……。


異世界か……二つの世界を行ったり来たりすれば需要供給が異なるだろうし、チートできそう……なんて無理だよなぁ、目の前の二人は普通の人だろうし……。


「意外と欲張り」「こっちの世界にいながら異世界は駆けずり回ることになる……だから……」


「「あなたが2人、2つの世界に同時に存在すれば解決するね」」


「はい?」






気がついたら、オレは黒い美女と共に見知らぬ草原に立っていた。


「……???」


「ここはアストレイア。貴方の知識で言う異世界。取り敢えず生活するためのお金とか言語翻訳能力あげる」


首傾げてると額に指が当てられて――何やら頭に流れ込んできた。


「――ん、これでよし。あとは……」


腰にベルトを巻き付けられる。


ベルトには小さな袋や革の鞘?に刀身が収まってるナイフなどがあった。


「あーあー……言葉通じる?」


「え? あ、はい」


「ならばよし。あとは東……太陽を背中にして進んでいけば、そのうち街が見えてくる。腰に着けてないお金や道具もろもろはその小袋……にはなくてストレージにあるけど、虚空から出したら面倒なことになるからその小袋から出すフリするように。もし困ったら神殿とかに行って祈って。暇なら反応するから」


そう言い終わると音もなく消え去る。


……えっ? あの、色々説明がないような……。


オレの心の声は草原の風に吹かれて消えていった……。

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