第1話

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列車の音が響いている、

辺りは彼岸花が咲き乱れておりました。

ちょうど、9月の暮れだったような気がします。

私は常に天涯孤独のぼっちでございました。

両親は私が幼い頃に姿を眩ましたので、

とある施設から出ることもなく、

外の世界をあまり知らずに十三まで生きてきました。

十三まで…と、いうのも食事は不味いわ衣服は臭いわ、ろくに世話もしてくれない様だったので嫌んなって抜け出してきたのであります。

八年は我慢したのですから、そろそろ自由になっても良いでしょう。

もう十三。大人になっても良いでしょう。

そろそろ丑三つ時ぐらいかと思った時、私は興奮してきました。

普段なら怖くなって施設に戻っていたかもしれません。

しかし不思議とそうはならななかったのです。

なにしろ、八年ぶりの自由なのです。

心が躍る様な気持ちで銀杏の木の通りを駆け回ります。

犬の様に夜道ではしゃぐような私は、とても珍しかったでしょう。

街を、夜の街を知らない私には、全てが輝いて見えました。

当時の私より少し歳上ぐらいの人達は皆、夜遊びをして、広い道路の真ん中で、

疲れ果てて寝ているのでした。

車が走っているのにもかかわらず、皆、気持ち良さげにすやすやと寝ているのでした。

私も一つ、真似してみようと思いまして、そこの地べたに寝転んでみました。

今ほど地べたは綺麗ではなかったので、どこか寝心地が悪う御座いました。


その次の昼は、小さなサーカスを見て過ごしました。

客は私一人。演者はたった三人と、とても静かなところでした。

ゆあーん ゆよーん ゆやゆよーん

ブランコが揺れているのを見ながら、ふと、私は思いました。

これからどうしようか。

どうやって生きようか。

鰯が一匹、私の頭上を横切ったのでした。


夜は歓楽街に行ってみました。

そこもまた、終電を逃して血を吐きながら

道端で眠っている人々で溢れかえっていました。

私は途中で足首を掴まれ、酔っ払いに靴を奪われたので

裸足でコンクリートを歩いておりました。

私の足は青紫色と朱色の混じった赤色でいっぱいになっていました。

そこでもまた、私は道端で眠りました。

その前の夜よりはマシでしたが、やっぱり寝心地は悪く、そろそろ施設が恋しくなっていました。

まだ2日目だ。挫けてはいけないと、自分に言い聞かせながら眠りにつきました。

この夜は夢を見たような気がします。

確か、奇妙な女の絵を描いた後、犬が産まれる夢だったような気がします。


朝は、ある女に起こされました。

女は通りすがりで、ここの近くの居酒屋で働いているそうでした。

どうやら夕方から曙まで、汗だくになって働いた後、帰り道に私を見つけ、不思議に思って声をかけたらしいのです。


「ぼん、こんなところで何してんねん?

まだそんな歳ちゃうやん」


茶髪気味の、化粧の濃い人でした。

一見、20代後半ぐらいに見えますが、

よく見ると16ぐらいにも見えました。

声も(私よりかは大人びていますが)、意外と幼いようでした。


「やかましいな、好きにさせてよ」


「何言うてんねん。

あんたみたいなのがこんなとこに

いてええわけがあれへんやん。

学校は?家は?どないしたん?」


「ない」


「へっ?」


「な、い!」


「…」


「無ーい言ってんの!!!」


その女が少したじろいたのがわかりました。


「え…あぁ、ま、…なんや、かんにんな。嫌なこと聞いてもうたね」


「うっせ」


朝早くに起こされたので、私はかなり気が立っていました。

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