第2章 ― 同じ階、異なる世界


エリアナの携帯電話のアラームが、狭い下宿部屋にけたたましく鳴り響いた。


ピピピピッ!


彼女は顔をしかめ、枕で耳をふさいだ。

「うぅ…世界が終わったわけじゃないよね? なんでこんな朝早く起きなきゃいけないの…」とつぶやく。


その下宿部屋は質素で、ほとんど窮屈だった。壁に押しつけられた小さなベッド、角に置かれた古い木の机は教科書とノートで埋もれ、キーキー音を立てる古い扇風機、そして色あせた青い制服が二着かかった小さな物干し。壁はほぼ何もなく、自分で書いたいくつかのメモが貼ってあるだけだった。「誰にでも輝く時がある」――今となっては皮肉にしか思えない。


半分眠った目で、エリアナは携帯を取り、アラームを止め、ため息をついた。デジタル時計は午前5時20分を指している。毎日同じ時間、同じ日課。


「六日間労働を考えたやつ、永遠に床が汚れっぱなしになればいいのに…」と彼女はぼやいた。


――


冷たい水のシャワーで震えた後、彼女は仕事用の制服に着替える。色あせた薄青のシャツ、シンプルな黒いズボン、そして朝の風をしのぐ薄いジャケット。長い黒髪は、今にも切れそうなゴムで適当に束ねた。


机の端にあるひび割れた小さな鏡に映る自分を見つめる。目の下のクマはさらに濃くなっていた。

「ふーん…これ以上濃くなったら、パンダのコスプレで稼げるかもね。」


彼女は小さく笑い、自分を励まそうとした。そして肩掛けバッグに荷物を詰める。薄い財布、水筒、小さなノート、そして焦げかけの卵焼きがのったお弁当。


――


市バスはいつも通りぎゅうぎゅう詰めだった。エリアナは立ち、ポールにつかまり、運転手が急ブレーキをかけるたびにバランスを保とうとする。他の乗客も皆同じように疲れていた。きちんとしたシャツを着た会社員、袋を抱えた小商人、大きなヘッドホンで耳を覆った学生。


エリアナは窓の外を見やり、すでにバイクと車であふれるジャカルタの道路を眺める。クラクションが鳴り響き、太陽がゆっくりと昇っていく。


だが、彼女の心は昨夜の地下室に戻っていた。

突然光を放ったモップ。

床に映った不思議な反射がこちらを見返していたこと。

木の柄から聞こえたかすかなクリック音。


彼女は唇を噛む。

「はぁ、考えすぎだよ。ただの幻覚。疲れてただけ。」


けれど心の奥で、小さな部分は知っていた――それは幻では済まされないほど現実的だった、と。


――


彼女の職場であるオフィスビルは、朝日を浴びてガラス窓が輝いていた。エリアナはロビーに入り、顔なじみの警備員に挨拶する。


「おはよう、アガサ」彼女は小さく微笑んだ。

「おはよう、エリアナ。今日は珍しく遅刻じゃないんだな。」


彼女は小さく舌を出す。「えへへ、からかわないでよ。今日はちゃんと真面目モードなんだから。」


指紋認証で出勤を済ませ、1階の清掃員用ルームへ入る。すでに何人かの同僚が集まっていた。おしゃべりだが面倒見の良いエラフィエル姉さん、そして仕事よりスマホゲームに夢中な20代の青年エトレ。


「エル! また19階なの?」とエラフィエルが髪を束ねながら尋ねる。

「うん、どうやら私はあそこ専属みたいだね。」エリアナは用具棚を開けながら答える。

「もう、いつも上の階ばっかり。大変でしょ。ふくらはぎ、もう鉄みたいになってるんじゃない?」

「強くなった方がいいよ。誰かムカつくやつがいたら、一発蹴っただけで吹っ飛ばせるからね。」


みんな笑った。エトレはスマホから目を離さずに鼻で笑った。

「いいなぁ。俺なんて地下室だぞ。じめじめして、暗いし、蚊だらけ。」


地下室という言葉に、エリアナの体が固まる。昨夜の記憶が一気によみがえる。彼女は無理やり笑顔を作った。

「へぇ、そうなんだ。昨日行ったけど、マジでホラー映画の雰囲気だったよ。」

「ぷっ、地下なんてどこも同じだろ。大げさだな。」とダヌが冷たく言った。


エリアナは黙り込み、モップを点検するふりをした。


――


勤務開始。エリアナは清掃カートを押し、エレベーターで19階へ。広いオフィスフロアはまだ無人で、机は整然と並び、昨夜のコーヒーの香りがかすかに残っていた。エアコンが静かに唸っている。


彼女は机を拭き、椅子を整え、長い床をモップ掛けする。体は習慣通りに動くが、心は落ち着かなかった。


昨夜の影が頭から離れない。床に光る目。手の中で震えたモップ。


「お願いだから、モップが憑依されたとかはやめてよ…」と彼女はつぶやいた。「私の人生、もう十分大変なんだから。怪異なんて要らないの。」


――


昼休み、エリアナは小さな給湯室で弁当を広げた。白いご飯に、端が焦げた卵焼き。


隣に座ったエラフィエルは、家から持ってきた野菜炒めを取り出した。

「エル、痩せたんじゃない? ちゃんと食べなきゃだめだよ。」

エリアナは小さく笑う。「予算が許せばね。」

「もう、若い子は…。私だって働きながら学校行ってたんだから。頑張らないと。仕事だけじゃなくて、大学はどうしてるの?」


その問いはエリアナの胸を刺した。彼女は視線を落とし、プラスチックのスプーンでご飯をかき混ぜる。文学科の大学は、学費のせいで1年間休学中。ほとんど誰にも話していない。


「いつか…戻るよ。」彼女は小さく答えた。

エラフィエルは肩を軽く叩いた。「それでこそエリアナ。諦めちゃだめよ。」


――


夕方、エリアナはいつもより早く作業を終えた。清掃員ルームに戻ろうとしたとき、エトレが近づいてきた。


「エル、地下室に一緒に来てよ。パイプが漏れてるみたいでさ。一人じゃ無理なんだ。」


ドクン。


エリアナはごくりと唾を飲み込む。昨夜の光景が鮮明によみがえる。

「でも…それ、君の担当じゃない?」

「まあ、君の担当でもあるだろ。チームなんだからさ。一緒に行こうよ、早く終わるから。」


断りたかったが、理由が思いつかない。結局、彼女はうなずいた。

「わかった。」


――


地下室は再び、湿った匂いと冷たい空気で出迎えた。蛍光灯がチカチカと点滅し、薄暗さを増す。


エトレは口笛を吹きながら前を歩く。エリアナはその後ろで、モップを強く握りしめた。


金属ラック、古い機械、そして水が滴るパイプの角を確認する。

「ほらな? 水が止まらない。このままじゃ床が水浸しになるだろ。」とエトレが言った。


エリアナはしゃがみ、濡れた床を見つめる。ふと、自分の顔が映った。だが今度は――その瞳が淡く光っていた。


心臓が大きく跳ねた。「エトレ…見えない?」

「何が?」

「床の反射…」

「反射? 顔が青白く映ってるだけだろ。」


エリアナは硬直した。手にしたモップが震え始める。モップの先端がかすかに光を放ち――まるで呼吸するかのように脈打った。


落としそうになる。だが、エトレは何も気づかず、スマホでパイプを撮影しているだけだった。

「エル、技術スタッフに報告するわ。怖いなら先に戻ってていいぞ。」

「えっ…う、うん。」


エリアナは慌てて地下室を出て、心臓を激しく打たせながら廊下に出た。人気のない廊下で、彼女はモップを強く抱きしめる。


「…お前、いったい何なの?」とささやく。


その時、初めてそれは応えた気がした。

声ではなく、温かな光の脈動で。


彼女が無意味だと思っていた日常に――小さな亀裂が走り始めた。

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