第10話 リカバリーをしてみよう

「パンツの色?」


「えぇ、はい」


「よかろう。教えてやろう。白だ」


(おかしいな。原作だと教えてくれなかったのに)


ちょっとだけ展開が変わったようだな。


ちなみにこの選択肢を選ぶことによってアリシアは呆れて俺との会話をやめる。

原作ではこれが最速ルートだった。


「…」


俺のことを訝しんでいた。

そして


「……まさか、な」とか言いつつそれ以降は何も言ってくるような様子はなかった。


さて、俺の方は更に奥に入ってレベリングをすることにしよう。



レベリングも終わって村に帰ってきた。

いつもは閑静なものだが、今日は村の中心にみんなが集まって賑やか。

その理由はすぐに分かることになった。


(アリシアが村にきたのか。ここも原作と同じだな)


原作ではこの辺りで異常なモンスターの発生予兆を検知したとかって理由でこの村にきた。


ちなみにその予兆というのはデビルスライムのことだったのだが、そのデビルスライムはすでに俺が倒している。


ね?RTAでしょ?


そんで、原作ではここからアリシアによる説明が長々と始まることになるんだが、話が終わった瞬間に話しかけることでこの話題は一瞬で終わるというのが原作の最速ルート。


「というわけで、私が村に来た。怪しいものではないから警戒しないで欲しい」


話が終わった。 村人が散らばっていくのが見えたから近寄る。


「おや、君は」


「あなたがこの村に来た原因は既に解決しただろう?」


「ん?君はいったいなんの話しをしているんだ?」


「え?」


今度は俺がポカーンとする番だった。


「デビルスライムは倒されてた。それで終わりだろ?」


「いや私が来た理由は別にある。デビルスライムはついでだ」


(展開が変わってる?本番の悪魔さん?)


とりあえず話を聞いてみよう。

そう思いアリシアを見ていたのだが。


「君ではないよな……」


なんてことを言っていた。


「なんの話?」


「いや、なんでもない。」


なんでもないわけないだろって思ったけどRTA的には彼女との会話はロス扱い。

まぁ、大した意味はないだろう。


俺たちの間で無言の時間が流れる。

ちなみに原作ではこれでストーリーが進むんだけど。


(おかしい。進まない)


普通この直後アリシアは帰っていくことになる(通称即帰宅アリシアさんとか呼ばれて「なにしにきたんでしょうか」とか実況にネタにされるんだが)。


だが、帰らない。


(とりあえず俺の方から離れるか)


このままここに居ても時間を浪費するだけだと思う。

俺がそう考えた時。


「やぁ、ふたりとも」


この村で師匠をやってるレオが加わってきた。


「お久しぶりです。団長」


「団長はやめてくれよ。もう退団した身だし」


この2人はかつて同じ騎士団で上下関係にあった。

そのため顔見知りである。


(うんうん。原作の知識は使えるし原作通り動いてるな)


で、アリシアが口を開いた。


「ところで師匠。話を聞いていた相手というとはこの男性のことではないでしょうね?」


「え?いや。そうだよ。レイナスのことだよ」


そこでレオはニヤリと口元を歪めた。


「レイナスこそ私の話した男だ。ぜひ騎士団へ入団させてみたい」


アリシアは全身から力が抜けていた。なにやらショックなようだ。


「こ、この人が私が探していた男?う、うそだと言ってくれよ団長」


「本当だとも」


「わ、私はこの方にパンツの色を聞かれたのだが。まさかこんな人があのカイルを倒したと言うのですか?」


「そうだ。レイナスはあの名門出身のカイルを倒している。それは私がこの目で見た」


ちなみにストーリーは一ミリも知らない方向に進んでいっている。

これが本番の悪魔ってやつだろう。


だがRTAプレイヤーとしてなんとしてもリカバリーしないといけない。


(どこかのタイミングで大幅なリカバリーを差し込むしかないな)


元のチャートには存在しないオリジナルチャートを使ってでも。


ということで俺からもひとつ。


「パンツの色は何色ですか?」


これで元のチャートに戻るだろう。

早く!俺の知ってる世界に戻ってくれ!

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