第11話 失礼だな。常識くらいある

俺の発言で場が凍った。


(ありゃま、失敗したか。当然と言えば当然だが)


静寂を破ったのは師匠。


「ふむ。よし。レイナスお前はとりあえず下がっていろ」


(おっ?これは?)


よく分からないけどこの場を下がっていいらしい。


「失礼します」



家に帰ると久しぶりに風呂に入ることにした。

ほんとに久しぶりである。


そんなわけで珍しく自室を出て風呂場へ向かっていたのだが、ミーナに捕まった。


「坊っちゃまがお風呂に?」


「なんだ、そのありえないものを見るような目は」


「素晴らしきことです。坊っちゃまがお風呂に入られるなんて、私は感動してしまいました。この素晴らしき日に私も立ち会わせてください」


お目目までウルウルさせてらっしゃる。


「そこまで感動するようなことか?」


「あれだけお風呂にも入らなかった坊っちゃまが訓練を切り上げて入られるのですから、きっと断腸の思いだったのでしょう。

この感動を──────生涯忘れることは無いでしょう」


(すぐに忘れてしまっても構わんのだが)


俺は脱衣場で適当に服を脱ぎ捨てるとそのまま風呂に入っていった。

ちなみにミーナは俺の世話役をしていたので、この程度のことで動じたりなどはしない。


腕を組んで仁王立ちして見つめるのは湯舟だ。

けっこう大きくて水もなみなみ入っている。


「さてと、【アクアボール】」


魔力を指先に集めて湯船から水の塊を持ってくるような、そんなイメージで魔法を発動させた。

すると水はふわりと空中に浮き上がってそこで留まる。


「へ?」


ミーナが脱力したような顔で俺を見ている。


「な、何故魔法を使っているのでしょう?お風呂に入るのでしたら必要はないでしょう?休みましょうよ、ね?」


「なんでって、訓練しにきたからさ。見て分からないのか?」


「え、えぇ?!!まだ訓練を?!」


「当たり前だ。俺には一秒も無駄にできる時間はない」


「な、なんですって(ガーン)」


湯船から持ってきた水をそのままボールの形に整えていく。

これが、アクアボール。


それからボールの形になったそれを湯船にもう一度戻す。

それからもう一度アクアボールを作る。

それらを何度も繰り返す。反復練習は無駄にならない。


「あ、あの体を洗ったりなどは?」


「もしも暇なら代わりに洗っておいてくれ。俺は忙しい」


カァァァァアァアァアっと顔を赤くさせる。


「どうした?」


「坊っちゃま、恥ずかしかったりはしないのですか?」


「いや、まったく」


「ぼ、坊っちゃま?常識というのを持ちませんか?」


「はて、常識なら持っていると思うけど」


「(常識をお持ちの方はメイドに体を洗わせたりはしませんよ?)」


なぜかミーナはため息をついていた。

それから恥ずかしがりながらもなんだかんだ俺の体を洗ってくれるのだった。

その間も俺はもちろん訓練に集中していた。


(アクアボール、アクアボール、アクアボール)


まずは基本となるアクアボールの形成に力を入れよう。

これが出来ないと水属性魔法は話にならない。


で、球状が安定し出すとこんどはそれを少しずつ動かしたりしだす。


(よし、ずいぶん動かせるようになってきたな)


あとはこの魔法を安定して出せるように訓練するだけだ。


ちなみにこの魔法は今後使うことになる。

ここで習得するのは必須事項である……


(って、あ、やばい)


つい力を入れすぎてしまった。

アクアボールがバシャッと潰れてしまった。


力を失った水はミーナに降りかかった。結果ミーナの服は水で濡れてスケスケになてた。


(ふむ。魔法を失敗したらこうなるのか。いいサンプルが取れた。もう失敗しないようにしよう)


「ぼ、坊ちゃま?な、何を見ているのです?」


恥ずかしそうにミーナはスケスケになってる部分を両腕で隠そうとしていた。


「いや、なに。失敗経験も大事か、と思ってさ」


「私の服透けてますけどなにか反応であったり感想は?」


「とくになにも。失敗しちゃったか、くらい」


「がーん(魔法のことしか考えてないですねぇ?この人)」


(アクアボール)


もう一度。挑戦する。

この魔法は今後のチャートで必要になる。必須の魔法だ。



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