狂狼病③:朝ごはん→鬼先生
鬼先生が台所へ着くと、チリちゃんはお惣菜と少し黒焦げた鮭の切り身を手際よく皿に盛り付けていた。
「今日のメインは鮭の切り身ですか。ありがとうございます。美味しそうですね。」
鬼先生がご飯を覗くと、その様子を見たチリちゃんは悔しそうに、そして小憎らしそうに言った。
「先生がちゃんとしてくれていれば、鮭は少しも焦げずに出せました。先生が!ちゃんと!していれば!!」
「ごめんなさい。でもチリちゃんのご飯は今日もどれも美味しそうですよ。」
「美味しそうって言っても、今の先生には味はわからないでしょ?」
「まぁそうなんですが。」
鬼先生は困った顔をして言った。
「とにかく。早く食べて下さい。」
チリちゃんが食事を薦めると、鬼先生は台所のテーブルに座り、両手を合わせて『いただきます』と言って食事を始めようとした、が、すぐに動きを止めた。
「チリちゃん、やっぱりこの矯正箸を使わなきゃダメかな?」
「何言ってるんですか?ちゃんとお箸を使えるようになりたいと言い出したのは先生ですよ。」
「そうなんだけど、やっぱり難しいし、カッコ悪いし、今日はフォークとナイフを、、、」
「ダメです!!!」
魔覚まし時計の件で不機嫌なチリちゃんは、慣れないお箸を使いたがらない鬼先生を許さなかった。
諦めた様子の鬼先生はお箸を丁寧に装着して、慎重にお惣菜に箸を伸ばした。
よりにもよって今日は煮豆がある。
(コレが上手く掴めれば、他のお惣菜も上手に食べられる。はず、)
そう考えながら煮豆を一粒掴んでみる。すると煮豆は突然足が生えたかのようにお箸の先から『ピョン』っと逃げ出した。
そして、そのままテーブルの上を走るようにして転がっていく。
鬼先生は煮豆を追いかけるが煮豆の方が一枚上手のようだった。
そして、鬼先生の必死な追いかけも虚しく床に落ちた。
(どぉせ味がわからないのに。)
鬼先生がそう思って不満そうな顔をしていると、チリちゃんは鬼先生の気持ちを察した様子だった。
そして、魔覚ましや焦げの件の仕返しをしようと意地悪な顔をして言った。
「今日は木曜日ですよね?ちゃんと食べないと週末のご飯は抜きですよ。」
「わかりました。頑張ります。」
鬼先生は慌てた様子で返事をした。
気持ちを新たにした鬼先生が頑張って朝ごはんを食べていると、若く、、、というよりも幼い感じの女の子の挨拶が同時に重なって聞こえた。
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