第5話 新発見

【お姉さん】

主人公。特殊な性癖の持ち主。エルフを守りたいという気持ちの強さに応じて強化ポイントを獲得し、エルフ軍を強化することができる。



【アイリス】

捨てられた大樹に住むエルフの年長者。1158歳。仲間を守るため、いにしえの魔術を使ってお姉さんを異世界から召喚した。



【マーガレット】

エルフ軍の衛生兵。1097歳。とっても仲間想い。




「マーガレットちゃん…ダメだよ、こんなこと…」

「こんなことって、どんなこと?」


 マーガレットちゃんは私を部屋の中に無理やり押し込んだ。意外と力が強い。

 そうして扉に鍵をかけると、そのまま私をベッドに押し倒した。


「だって君は、まだ子供じゃないか…!それなのに、どうしてこんなイケナイことを知ってるの…」

「そりゃあ…1000年以上も生きていれば、いろいろなコトを知っていて当たり前じゃないですかぁ?お姉さんなんて、まだ100歳にも満たないよわよわ赤ちゃんなんですからぁ…」


 マーガレットちゃんが私に覆いかぶさってくる。体は私のほうが倍近く大きいはずなのに、食べられるんじゃないかと錯覚してしまう。年齢差だけで言えば、私とマーガレットちゃんの間にはもっと果てしない格差がある。


「お姉さんが考えてることなんて、ちょっと魔力を使って調べてみれば、私にはぜんぶ丸見えですよー。私たちを出し抜こうなんて考え…甘すぎじゃないですか?」

「は、はひぃ…」


「私たちを救ってくれた人間のお姉さんが、実はみんなをイケナイ目で見てるへんたいさんだったなんて。それをみんなにバラしちゃったら、お姉さんはどうなっちゃうんでしょうか…?」

「うぅ…」

「アイリスちゃんなんて、裏ではお姉さんのこと大好き大好きってみんなに言ってるのに、お姉さんのこんな姿を見たらげんめつしちゃうんじゃないかなぁ?」


 これはまずいかもしれない。私はエルフを守りたいと思う気持ちの強さを強化ポイントに変換しているんだから、こんな風に意地悪なことを言われたら、エルフを守りたいという気持ちが薄れてポイントが減ってしまって…


 おや?+8540000ポイント?

 今の一瞬で?


「えへへ…お姉さん、いっぱいたまっちゃってますね?(ポイントが)。もしかして、私にこんなこと言われて喜んじゃってるんですか?」

「そ、そんな…こと…」

「よかったらぁ、私がぜーんぶ搾り取ってあげましょうか?(ポイントを)」


 ポイントの増加が止まらない。どうしてだ?いや、考えるまでもないか。自分が一番よくわかっている。

 ポイントが増加するのは、私がエルフに対して愛を感じている時だ。そして今も間違いなく、マーガレットちゃんに対して愛を感じてしまっている。

 こんなに意地悪なことを言われているのに!むしろそれが新鮮でいい!!


「バラされたくなかったら、わかってますよね?お姉さんは私に強化ポイントを割り振ってくれるだけでいいんです。そうしたら、ポイント数に応じて、お姉さんの喜ぶことをしてあげますから…」

「そ、それは…」


 これはもともとエルフちゃんたちに使うためのポイントだったから、いまマーガレットちゃんに使っても正直なところ全く問題はないのだが、こんな小さい女の子の命令に逆らえずにポイントをやすやす渡してしまうという情けない状況が、私の中で言葉にできない劣情を生んでいく。


「ほら、はーやーくー」

「うぅ…」

「もっと分かりやすく説明してあげないと、自分の置かれた状況も分かんないのかなー?」


 そうか、私って…

 小さい女の子にいじめられるのも好きなのか…


 それに気付いてしまった瞬間、私の手が勝手に動いてステータスウインドウを操作し、マーガレットちゃんにポイントを与える。

 -1000000ポイント。


「…意思よわよわなざーこ♡」


 あああああ!たったの1000000ポイントでこれか!!!!!!安すぎる!

 1000000ポイントを払うだけで無料で罵倒してもらえる!!これは資本主義経済の敗北だ!!


「も、もっと…」

 -5000000ポイント。


「…こんな小さい女の子に負けちゃうなんて、だっさぁ♡」


 -10000000ポイント!

「生きてて恥ずかしくないんですかぁ?♡」


 -100000000ポイント!!!

「こんなへんたいさんはさすがの私でも治せないかもー?♡」


 これはまずい!

 生意気な女の子(10倍以上年上)に全部搾り取られるっ!!(ポイントを)


「お姉さんがほかの女の子たちに変なことしちゃう前に、ぜーんぶすっからかんにしてあげなきゃね?(ポイントを)」

「あああっ!ありがとうございますうう!!」


 マーガレットちゃんの隠れた能力は、その観察眼だった。

 戦争で衛生兵をやって仲間の傷を診ているうちに身についたのかもしれないが、とにかく相手の望むことと嫌がることを見抜く能力に長けているのだ。


 くっ!もっと早くに気付いていれば!こんなことには!

 いや、気付いていたとしても自分からこの状況に飛び込んでいたかもしれないけど!


 なお、エルフにとっての体感時間は、人間とはかなり異なる。

 年を取る速さが200倍くらい違うので、エルフにとって「ちょっと遊ぶ」くらいの時間も、人間にとっては体感で1週間くらいになる。


 そして私はマーガレットちゃんに「ちょっと遊ばれて」しまったわけなんだけど、まあ結論を言うと、マーガレットちゃんには2週間くらい不眠不休で搾り取られ続けたのだった。もちろんポイントをね?

 それでも全く体に問題なかったのは、転生の時に私が人間ではない何かになってしまったからなのか、それとも私がこの状況をポジティブに受け取り続けたからなのかはわからないが…


 2週間経った私の目の前には、アイリスちゃん並みの膨大な魔力をその小さな体に宿した愛の怪物が誕生していた。

「うふふ…これで私も…みんなを魔族から守ることができる…♡」


 その目には、アイリスちゃんとは違う方向の決意で輝く愛の炎が燃えていた。


 こうして、アイリスちゃんに続き二人目の超強化エルフ、衛生兵のマーガレットちゃんが誕生してしまったのだった。

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