第5話 まゆギャル、爆誕!

「棺マジ暑かったんだけどー暗いしー怖いしー」

「まゆ……か?」

アキトがまゆをまゆだと信じられなかったのは、その喋り方のせいだけではなかった。バサバサの髪も、鼻の上のそばかすも、綺麗になくなっていたからだ。

「これ?ミトリくんがやってくれたんだ!髪はヘアアイロンで、顔はコンシーラーを塗りたくり!」

「ミトリくん?」


「いい式でした」

パチパチと拍手をするミトリがアキトのすぐ後ろに立っていて、アキトは思わず飛び跳ねた。

尻もちをついていたズボンの埃をはらい、ようやく立ち上がる。

「君がまゆを変えたのか?」

「変えたとも言えるし、変えてないとも言えます」

「?」

「これが本来のまゆさんです。今までいい子のお面を被っていたまゆさんが、お面を外して素のまゆさんになりました」

「素……」

アキトはもう一度まゆを見る。バッチリメイクを施したまゆは、素とは程遠いように思えた。


「信じてないでしょ、パパ」

「パ、パパ?うわっ!」

突然抱きついてきたまゆをアキトは慌てて受け止める。

「ずっとこんな風にしたかったの。前のままの私じゃ理想通りになれなかった。ミトリくんが生前葬をしてくれてやっとお別れできた。いい子のまゆに」

その言葉に、アキトは自分が娘に背負わせていた重積を感じた。

「まゆ……」

「なんちゃって!」

(軽い!!)

先ほどまでの思い空気から一変、葬儀場を包む呑気な雰囲気にアキトは全身の力が抜けた。


「もう出てきていいですよ」

ミトリの背後から二つの小さな影が顔を出した。

まゆの弟のまる太が妹のゆゆ子を、両手に一生懸命抱えて前に出てきた。

「おねーちゃん」

「まる太、お前喋って……!」

今までほとんど話すことがなかったまる太の声を聞いて、父のアキトも姉のまゆも驚いた。

「おねーちゃん、前のおねーちゃんに戻った!

まる太、まゆねーちゃん待ってたよ」

まる太が嬉しそうに目を輝かせると、その腕の中のゆゆ子も両手を広げてキャッキャと笑った。

「昔のまゆさんに戻ったのが嬉しいようですね」

「昔の……」

そう呟きながら、アキトはまだ3人の母が元気だった頃の家族の様子を思い出した。

そう言えばあの頃のまゆはわがままで、他の子とよく喧嘩していたけど誰よりも大きな声で笑う元気な子だった。

まゆが遠慮がちに笑うようになったのは、母が重い病気で入院して、父の代わりに家を守らなければならなくなった時からだ。

「そうか……俺、気付けなくてごめんな」

「まーいいんじゃない?」

バシバシと背中を叩くまゆの手には、これまた長いネイルがほどこされており、アキトの強張っていた肩が脱力した。


家族四人が思い思いに話し、賑やかになった葬儀場でミトリは静かに微笑んだ。

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