第7話

 中天に日が差す頃。

 荒い足音が長屋に響く。

 新太郎は勢いよく戸を開けた。

 老婆が若い男に介抱されていた。

 新太郎の隣に住む五郎であった。

「御免」と言って土足で上がると、布団に横たわるおたねの顔は腫れ上がり、痛ましい傷が刻まれていた。

 彼女は辛うじて意識を保ちながら、新太郎に訴える。

​「新太郎かい? あの子たちを、あの子たちを守ってやっておくれ⋯⋯」

 ​おたねが指す「あの子たち」とは、彼女が身寄りのない孤児たちを世話していた小さな寺子屋の子供たちの事であった。

 おたねは、辰之介という顔役から、孤児たちの食い扶持のために金を借りていた。

 しかし、その金は返済期限を過ぎ、高利で膨れ上がっていた。

​「辰之介⋯⋯」

 ​新太郎の顔は歪み刀を支える手は震えていた、すぐに奉行所へ訴え出ようとする。

 しかし、影が身に沿うように後をつけ同行していた三谷道啓みたにどうけいはそれを制した。

​「奉行所は十中八九動かん。辰之介は、裏で奉行所の役人とも繋がっている。まともに取り合ってもらえん」

 ​新太郎は道啓を睨んだ。

 奉行所が動かぬなら、どうすればよいのか。

 道啓の真意がわからず、彼のことを「ただの冷酷な始末屋」だと思い込み、距離を置こうと突き放そうとした。

​「お主は⋯⋯また人を殺めるつもりなのか? お主だろ? お主のせいでクビになった。何のために高い銭でテメェらを雇ってるんだとよ」

「⋯⋯」

「とぼけるなよ生臭坊主、与兵衛一味を事実上つぶしたのはお主だと俺は分かってんだ」

 ​新太郎の真剣な問いに、道啓は何も答えず、ただ立ち去った。

 砂埃だけが舞い、その静かな背中を見て、新太郎は道啓の事をますます理解できなくなった。

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