アルメリア王国物語〜世界最強の竜人に溺愛執着されてます。助けて〜
雪明かり
プロローグ
プロローグ
──この世界は様々な種族が気の赴くままに暮らしを営み命が巡っていた。
しかしある時北の山脈を越えたその先から。全てを呑み込む『闇』の帝国が攻めてきた。
帝国は人ならざるモノを引き連れ、命あるものを死に追いやり、命無きものに息を吹き込み世界を闇と瘴気で覆い尽くそうとした。
そこで世界を守るべく五種の『王族』が立ち上がった。『火』の竜人族、『水』の水人族、『風』の霊人族、『土』獣人族、『時』の仁族。
竜人の王族が炎で闇を払い、水人、霊人、獣人の王族が闇の痕跡や瘴気を浄化した。最後の仕上げに仁の王族が北の山脈に『時の鍵』を作り、閉めた。
こうして山脈は時を留め、闇の帝国が侵攻してくることは無くなった。
帝国の侵攻が無くなった後、竜人族は縛りを嫌いフラフラと旅に出た。水人族は水辺を愛し海を統べることに。霊人族は森に風がそよぐ小さな国を作り、獣人族は別の野山へ下った。
そして、『時の鍵』を守り続ける事になった仁族は山脈の麓に国を築いた。当代で一番強力な力を宿す者を時の守り人、『国王』と定め、代々山脈を守る仁族の国……それが『アルメリア王国』の始まりだった──
──って、言うのが誰もが知ってる世界の成り立ち。そしてアルメリア『国王』と五種の『王族』の違い。
王族ってのはそれぞれの種族ごとに決まった髪色と目の色をして生まれるんだ。
竜人族は赤髪赤目、水人族は青髪青眼、霊人族は緑髪緑目、獣人族は橙髪橙目、仁族は銀髪銀目。
と、こんな風に揃いの髪と瞳、両方が同じ色。それが王族の証だったりする。そうじゃない場合色の組み合わせはランダムだ。
ついでに言えば能力の強さは瞳の色に出る。より濃く色鮮やかに、明るく。髪色じゃなく目の方が重視されるってわけ。
それで、アルメリアの話。さっきも言ったけどこの国では仁の王族の中で最も能力が高い者を『国王』としてきた。不思議なことに彼、彼女らはみんな初代国王の血縁者に現れたから、自然と世襲制になったんだけど……困ったことに勘違いする
どの種族でも王族として生まれた場合。『時の鍵』にまつわる記憶が自然と継承される。世界の成り立ちとか役割、力の扱い方とかね。
けど、王族の兄弟姉妹がみんな王族として生まれる訳じゃない。
完全に目の色が違う者。髪の色が違う者。片目しか引き継げなかった者……厄介なのが片目だけ引き継いだ者は王族の末端として記憶や力が微妙に継承されるってことだ。
先代国王は濃い銀色の瞳だった。そしてその弟も濃い銀眼を持っていた——片眼だけ。
それで、瞳の色の濃さと血筋で王が決まるなら自分だって王座に着く権利はある、と勘違いしてしまった。今この国で好き勝手にやり放題してる現国王……元王弟なんかがまさにソレ。
力で劣る彼がなんで先代を殺せたのかって、謎に思うだろ?そのやり方ががとんでもなかったんだ。やらかしてくれたもんだよ、全く。彼は大いに阿呆だ。
アルメリアの伝統に『時封じの儀』なんてものがある。鍵を閉めといてもいつかは緩む。だから『時の鍵』を閉め直すんだ。百年に一度。それが今から丁度十年前。鍵を締め直す瞬間を狙って彼は最悪な手段に出た。
王弟殿下は北の山脈の向こうから帝国を手引きしたんだ。
儀式の前だったからかな。山脈にできた隙間から皇帝の囁きが届いてたんだよ。邪な思いを抱いてた彼に。
欲に目が眩んだどころの話じゃない。とにかく最悪だ。これ以上罵りようがない程の馬鹿としか言いようがない。
何万年と昔、初代の王族が闇の帝国を押し返すのにどれだけ苦労した事か。きちんと記憶を継承していない彼は未だに理解しちゃいない。
呆れるほど阿呆な現王陛下は鍵を完全に開けてしまおうとしてるんだよ。帝国を招き入れれば自分は美味い汁を吸えて闇の皇帝と一緒に世界を支配下に置けるなんて考えて。
どう考えても利用されて捨てられるだけだろ?彼の脳みそは一体どこ行ったんだ。
まあ僕の愚痴は置いといて、鍵を開けるために陛下が何をしようとしてるかってことだけど。とある人物を探してるんだ。
帝国軍は『時の間』に侵入してからあっという間に他の王族を殺害。国軍も帝国兵に取って代わられ、アルメリアは外部に伝達する間も無く閉鎖された。
唯一の救いは鍵が完全に開いた訳じゃないこと。瘴気や闇の皇帝がまだ入り込んでないことだ。現国王陛下の力じゃ鍵がそれ以上緩められなかったのさ。
だから彼はまず、殺した先代から目を奪おうとした。けど、死んだ者の目に力は宿らなかった。これが彼の誤算。
まあ僕から言わせて貰えば生きてる者から銀眼を移植したところで、力や記憶が継承されるもんだか怪しいと思うんだけど……これをまた帝国が上手く丸め込んでてさ。こっちの話を聞きやしない。嫌になるよほんと。
遺体からは銀眼が取れないとなった彼は非常に焦ってた。
誰よりも色濃く鮮やかに輝く銀色の瞳を持っていた人物が姿を消していたことにね。
先代は致命傷を負ったけど最後の力を振り絞ってその人物をアルメリア王国軍に預け、引くように告げた。その人物が成長して鍵を閉められるようになるまで隠し、守り、育てるように、ってさ。王国軍は軍団長を筆頭にその人物を連れて逃げた。そして反乱軍として全国各地で奮起した。
ここまで来ればもうお察しだろ?
唯一生き残った王族。
先代国王の末息子。
それが僕だ。
この十年。僕だって反乱軍の一員として貢献した。ほんとさ。帝国軍との戦闘に始まって、国民から搾取する現王派の貴族や国王から食糧やら金やらなんやら奪っちゃ国民に配って保護して回った。
そして何より大事な使命。『時封じの儀』をするために城を目指した。危険を犯して王都にもアジトを作った。
けれど城には侵入できなかったんだ。帝国の力を借りた現王が闇の結界を張ってたから。
時の力じゃ、闇は払えない。
だから現れるのを待った。探した。闇を払う力を持つ『彼』を。
と、まあ世界をフラフラ旅してた彼がやっと現れて、交渉して、王城に侵入できたのはいいんだけどさ。
なんやかんやあって、僕は今。
ガッチガチに、拘束されて、目を奪われそうになってる。
うん。絶対絶命ってやつだ。
なのになんでこんな悠長に話してるかって?それはね……
ガシャンと窓が割れる音が大きく響いた。ガラス片と共に飛び込んで来たのは目にも鮮やかな『赤』。
ああ、来てくれると思ってた。彼を信じてたからさ。
彼は僕に執着してる。それはもう愛に近い。彼がアルメリアと縁深いのは数千年ちょっと昔の、十七代目アルメリア国王と親友だったから。彼が言うには僕はその人と瓜二つらしい。
その十七代目国王陛下なんだけど。とんでもない約束をしてくれてたんだよなあ……
『竜人の王族』の炎が吹き荒れ僕の拘束も解けた。今度こそヘマしないように彼の元へ駆け寄る。
「ったく。ヘマしやがって……間一髪じゃねえか。冷や汗かいた。責任取れよ、『ゼル』」
「ごめんって言ったじゃないか。それに、元はと言えば君のせいだろ、『カガリ』」
彼、ことカガリは僕と同じく歴代最強の力を持つ『王族』だ。
闇の力を払う竜の炎。山脈を閉じる鍵を担う仁の時。
これは僕達が世界を救う物語——と、言いたい所だけど……
「ちょっ、……っと、カガリ、なに、人の服、捲ってるんだ、っよ。こんな敵陣の中でまで止めて欲しいな」
「うっせ。あーあーココもソコもココも傷だらけじゃねえか」
まだ敵に取り囲まれてるってのにカガリが勝手に服を捲り上げ、ベタベタと触ってくる。
心配してくれるのはありがたいけどセクハラ行為はごめん被る。ほら、現王の目だって点になってるじゃないか。
おっと自己紹介がまだだった。
僕の名前はリゼルト・A・アルメリア。愛称はゼル。十七歳。アルメリア王国最後の王族。
早い所現王……叔父上を倒さないとなのに、味方のカガリに押し倒されてる。助けて。
「いいっ加減にしろって!」
上からのし掛かってくるカガリを蹴飛ばしたけど余裕で避けられた。竜人族はただでさえ身体能力が高いんだ。ずるい。
「しょうがねえな。後にしてやるよ」
カガリと背中合わせに立つ。
時と場合を考えて盛って欲しい。いや、ほんとはいつだって嫌だけど。
「約束忘れんなよ。国守ったら、お前は俺の嫁だからな
そう言ってカガリは火を吹いた。帝国兵が融解していく。僕は叔父上がそれを邪魔できないよう、炎の時を加速させた。
時の鍵を閉めたら終わり。
世界は再び平和になりました。ちゃんちゃん。
……で、終わりそうにはない。
十七代目はカガリと一つ。約束を交わした。もし、『国が危機に陥ったら助けて欲しい』と。その対価に『自分の子孫から一人、好きなヤツを嫁に持ってけ』だってさ。
酷いじゃないか。彼の子孫なんてもう、叔父上か僕しかいないんだ。
ついでに言えばカガリは十七代目に並々ならぬ想いを抱いてた。その人に似た『僕』を対価にしない訳がない。
世界は滅亡の危機に晒されてるけど僕は貞操の危機に晒されてる。
この十年、果敢に戦ってきた僕でも世界最強の竜人相手にはどうにもならない。だからもう一度言おう。
誰か助けて。
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