第01話 朱鳥天雀
まだ麗らかさを残した春の夕刻。いつもより早い下校を余儀なくされ、トボトボと正門までの道のりを歩いていた。
「ハル?」
正門前で突然声を掛けられて、ぎくりとして振り返った。と同時に、額になめらかな掌が添えられていた。
「わっ、え、ちょっと……!」
僕は慌てて身を引いた。
目の前には、夕景を梳かしたような髪の女の子が立っていた。
「熱はないみたいだけど……あれ、でも顔が赤いわね」
「
「なに言ってんの? これくらいいつものことじゃない」
彼女は笑いながら僕の頭をポンポンと触った。
「こんな時間に下校してるから、てっきり体調が悪いのかと思って心配したのよ。なにかあったの?」
「バスケ部、退部させられた」
僕の出し抜けな告白に
振り返ると口を半開きにした状態で固まっていた。視線だけは僕をしっかり射抜いている。
「追放されたんだ」
もう一言加えて放つと、彼女の半開きの口が更に開けられてついには声が放たれる。
「ええええええ!?」
正門から校舎へ届きそうな勢いで、
僕は退部までのプロセスを説明することにした。
僕は中学の頃、不良の
僕が嘘を吐いてないと主張しても、先輩は納得してくれなかった。今となっては確かめようのないことだから弁解のしようがない。そこで
「嵌められたんじゃない?」
と、あっけらかんと言った。
「いや、でも、
「はあ……あなたねえ、
僕は言葉を失う。
「努力でフリースローが入るってのもねえ。NBAの平均成功率は知ってる?」
「90%以上とか?」
「そんなの成功率歴代1位のステフィン・カリーくらいよ。平均は70%くらい」
あ、そんなもんなんだ。
「それをプロですらない高校生ごときが努力をすれば決められる? 外したのが努力してない証拠? 笑わせるわね。
「あなたは努力をしている。わたしはそれを見て来た。努力の証拠、見せてやりましょうよ」
炎の温度がますます上がり、僕はつい視線を逸らしてしまう。
「証拠を見せようにも、僕はもうバスケ部じゃないよ」
「だから、わたしとチームを組むの」
「
それは嬉しいことだが、どうやって?
「二人だけど」
「
「三人制バスケのことだよね?」
「うん。それをやりましょう」
「……あの、二人だけど?」
五人制が三人制になろうとも、僕らが二人であることに変わりはない。
「だーいじょうぶっ! 個人的に目を付けてる子がいるから。だからまずは
断る理由はない。これが
「じゃっ、まずは整体行こっか」
いやまだOK出してないんだけど。雰囲気で察したの? バスケプレイヤーだから? 幼馴染だから? って言うか、え、なに? 今、整体って言った?
混乱する僕を尻目に、彼女は手を掴んで走り出した。
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