第32話 早く来い
「相変らず何もないつまらない町よ」
そう言いながら下卑た表情を浮かべているのは付近一帯を治める都市ラービスの領主の息子、ハビエル。
少し贅肉のついた体を震わせ、周囲を見渡す。
「そうですな、坊ちゃん」
その言葉に返すのは取り巻きの護衛である。
「私は視察に向かう。お前達はそこらで遊んでおけ」
「「はっ」」
ハビエルはその体を動かし、村の中に入っていった。
「はあ。こんな村でなにしろってんだよ」
取り巻きはため息を吐く。
「とりあえず俺達だけでも村長に挨拶に向かうか」
「その後は酒場かね。こんな村はやることもねえ」
取り巻き達は村長の下へ向かう。
一方ハビエルは若い女を探して周囲を散策する。
「おらぬのお。爺ばかりだ。ここは数人可愛い女がいた筈なんだが……」
するとそこでハビエルの表情は興奮したものに変わる。
「いるではないか……」
その目線の先にはアランの妹であるレミであった。
「おい、そこの女」
「は、はい! なんでしょうか?」
レミは突然声をかけられたことですっかり驚いている。
「私は次期領主のハビエルである。お前に私にこの村を案内する権利を与えよう。光栄に思え」
「……え?」
突然の状況に混乱に、上手く返せないレミ。
「ふう。田舎娘はこれだから。村の外の森を案内せえ。いいだろう? 誰も居ない家でも良いぞ」
そう言って、手を掴む。
「も、森ならベン爺さんの方が……」
「お前じゃないと意味がなかろう。あそこは小屋か……? 早く来い!」
そう言って、無理やり引っ張ろうとする。
「た、助けて……」
ハビエルの言動に恐怖を感じたレミが、助けを求める。
「すみません。案内でしたら僕がしますので、手を放してもらえますか?」
その時、アランがハビエルに声をかける。
「お前など要らん。殺されたくなければとっとと失せろ」
「お断りします。妹を離してください」
「しつこいの。俺に逆らったら、お前もこの村も終わりだぞ?」
不快そうに言うハビエル。
それに一瞬止まるアランだったが、すぐさま切り替える。
「私が案内しますので。妹を離してください」
そう言って、ハビエルの腕に手を伸ばす。
「ちっ!」
次の瞬間、ハビエルは剣を抜くと、その剣をアランの腹部に突き刺した。
アランの口元から血が漏れる。
「え……」
「たかが村人が……俺に逆らうとどうなるのかも分からんのか。これだから、田舎者は」
と吐き捨てるように言った。
「キャア―――――! お兄ちゃん!?」
叫ぶレミ。
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