第28話 これがいい
翌日、農作業を手伝っていると、ソフィアがこちらにやってきた。
「聞いたわ。ロクサス達を殴ったんですって? それって……私のため?」
「ああ。ソフィアがあの服を大切にしていたのは知っていた。それを思うと、体が動いていた。結果的に、関わらないという約束を破ってしまった。すまない」
俺の言葉を聞いたソフィアの顔が少しだけ紅潮する。
「そう……なんだ。いいわよ、そんな約束。昨日の夜はとっても辛かったんだけど、それを聞いて凄く嬉しかった。ありがとう」
約束は破ったのに、いいのか。
人間社会は難しいな。
俺は首を傾げた。
畑仕事を終わる頃、再びロクサス達が現れた。
前と違うのはロクサスは無精ひげを剃り、髪も後ろに縛っている。
しつこいな。
殺さないと、こういう時面倒なんだよな。
「アンタ達、まだ懲りてないの?」
ソフィアが不快そうな声色で言う。
「違う、そうじゃないんです! 二人とも、申し訳ありませんでした!」
「「申し訳ありませんでした!」」
ロクサスが深々と頭を下げると、合わせて背後の二人も頭を下げる。
「どういうつもりだ?」
「いや、レイルの兄さんにやられて目が覚めました。お詫びになるとも思っておりませんが、お詫びの品です」
そう言って渡されたのは、新品のワンピースだった。
前と同じような純白であり、ここら辺では売ってない物であることが分かる。
「こんな物で誤魔化されると思ってんの?」
ソフィアが睨みつける。
「おっしゃる通りです。許してくれとも言いません。レイルの兄さん、これからは真面目に働きますので、どうか村に居ることを許してくれませんか?」
許すもなにも俺が決めることじゃないだろ、としか思わなかった。
強く蹴りすぎたのだろうか?
「二度と人に迷惑をかけるな」
「「「はい、分かりました! 失礼します!」」」
そう言って深々と頭を下げると帰っていった。
「怖いくらい態度が違ったわね。冒険者ってのは、明らかに自分より強いとああなるのかしら?」
ソフィアも首を傾げる。
「まあ、どうでもいい。服、手に入ってよかったな」
「あんな奴からの服か、とも思うけど服に罪はないわ! 前の服より上等な服、よく手に入れて来たわね」
ソフィアは文句を言いつつも、服に罪はないと割り切ったらしい。
その日以降、ロクサス達はすっかり大人しくなった。
ロクサス達がおとなしくなってから、客足も戻った酒場に通常通り卸すことができるようなった。
そして季節も廻り、冬も顔を出し始め少しだけ寒くなってきた。
「くしゅっ」
「なんじゃ、レイル。くしゃみをしておるな。寒いんか?」
夕食を終え、三人でのんびりとしていると、くしゃみが出てしまった。
「いえ、大丈夫です」
「村の寒さは凄いわよー。あんたに耐えられるかしら?」
とソフィアがからかってくる。
「それはいかんなあ。これは儂が着ていたいたものじゃが、着るとええ」
そう言ってクリフさんは分厚い毛皮でできたファーを持って来てくれた。
「レイルも新しいものがいいんじゃない?」
「それもそうか。また商人がここに来た時に買えばええ」
だが、俺はそのままクリフさんのファーを受け取る。
「いや、これがいいです……」
ソフィアが言う通り、新しいものの方がいいに決まっているのに、なぜか俺はこれが良かった。
「無理せんでええぞ? 上着くらい買う金はある」
「いや、クリフさんからもらったこれがいいんです」
俺は早速そのファーを羽織る。
使い込まれているが、どこか暖かい。
そして、なぜか安心するのだ。
「いいんじゃない、お爺ちゃん。レイル、嬉しそうだし」
「そうか。また新しい物が欲しかったら言うんじゃぞ。これから、冬になる。色々また教えてやらんならんのう。知らんことばかりじゃからのう」
「教えてください」
この服があれば、冬も越せる気がした。
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