暗中模索、そして神に届くまで。
夜染 空
第1話
『暗中模索、そして神に届くまで。』
黒田(くろだ) 黒田スグル 県警の刑事。 正義感と感受性が強い。犯人に至るためなら危ない橋を進んで渡る。 設定年齢30代 白木より歳上
白木(しらき) 白木リョウタ 県警の刑事。とある殺人事件を追って黒田と行動を共にしている。設定年齢30代で黒田より歳下
久世(くぜ) 劣悪施設で生活する子供 幼い頃の体験から『神様』を求めるようになる。
性別不問、 設定年齢10代(12-16歳) 歳よりも達観していて大人びた雰囲気がある。
衣更(いさら) 劣悪施設に暮らす子供 久世に着いて回っている。幼い頃の体験から心を壊してしまう。
性別不問、設定年齢10代(12-16歳) 知能に若干の遅れがあり、歳よりも言動が幼い様子が見られる。
----
-夜、不可解な死体が発見された現場を雨の中調べる刑事が2人
黒田:「…まだ見つからないのか」
白木:「物的証拠がない…」
黒田:「(舌打ち)これで5人目だ…」
白木:「犯人像や共通点は一切不明…これじゃ調べようがない」
黒田:「現場には一切の証拠がなく、争った形跡も犯人のものと*
白木:「あぁ…お手上げ状態だな……」
黒田:「……はぁ。タバコあるか?」
白木「…ほれ」
-タバコを受け取って火をつける黒田
黒田:「悪いな…これじゃいつまでたっても禁煙出来ねぇな」
白木:「お前が禁煙?冗談は辞めてくれ、神様もビックリだ」
黒田:「気持ちは大事だろ?」
白木:「……そうかもな。」
白木:「…冗談はこの辺でおしまいだ。仕事の続きをしよう」
黒田:「……そうだな」
0:
衣更:「つまらなかったね。」
久世:「……そうだね」
衣更:「次はどうする?」
久世:「もっと頭の良さそうな人がいいな…」
衣更:「そうだね…でも、そんな人、近くにいるのかな?」
久世:「いるよ、きっと。」
衣更:「…いたらどうするの?」
久世:「どうしようか……」
衣更:「…?」
久世:「衣更がただ遊ぶだけなら誰でもいい…」
衣更:「…そうだね……今までの人達はすぐ終わっちゃったから、もっと長く楽しめる人がいい!!」
久世:「(小声で)…………『僕の、神様』……。」
0:場面転換、捜査中の黒田と白木
黒田:「しっかし……何をどーしたらあんな殺し方が出来るんだ…」
白木:「動脈と静脈に沿って綺麗な線を書くように…まるでお絵描きだな」
黒田:「共通しているのはそれだけ…死因は全て失血死。それ以外の外傷はなし。心臓や他の臓器は綺麗なもんだったとさ」
白木:「何が目的でそんなことを…」
黒田:「知るかよ、そんなもん、知りたくもねぇ…」
白木:「…そうだな……でも知らなければ、犯人には近づけない」
黒田:「……その気持ちは、いつかお前を殺すぞ」
白木:「わかってるさ…犯人に近付きすぎてはいけない。思考を深く考えすぎてはいけない…染まることは許されない。」
黒田:「そうだ。人を殺す人間の思考を安易に取り込んではいけない。」
白木:「わかってる。でも、時には近付かないとわからないことだってある。」
黒田:「…深入りだけはするなよ。」
-夜、とある児童施設内
衣更:「……眠くなってきた」
久世:「疲れたもんね…僕も眠い」
衣更:「もう寝よう?」
久世:「…うん」
衣更:「(ゆっくりと寝息を立てる)」
久世:「……眠いって言ってからの寝付きの速さにはいつも驚かされるな…さて……。」
0:衣更を置いてどこかに向かう
久世:「……」
久世:「M/結局、神様なんて居ないってわかってる……でも信じたい。僕を捨てた両親、保護された施設の劣悪な環境…死んだ目をして生きている仲間たち……何か希望がないと、生きていることが、バカバカしいじゃないか…」
久世:「M/『おかえり』って言ってくれる暖かい家庭?そんなもの幻想……でも、僕の目の前にないだけで、いつか誰かがそれを叶えてくれるかもしれない、こんな僕を救ってくれる人がいるかもしれない、受け入れてくれる人がいるかもしれない……僕をわかってくれる人……それこそが『僕の神様』……」
久世:「…いるなら、早く出てきてよ……」
-翌日、各方面の調査報告をする黒田と白木
白木:「医療関係者の線は?」
黒田:「付近の病院関係者は全てあたった。軒並みアリバイ有り。その線は無しだ」
白木:「…そうか」
黒田:「まぁ、あれだけキレイな線をかけるなら、画家の可能性もある。漫画家とか…美容師って可能性だってある。」
白木:「可能性ばかりが浮かんでは消えていくな…」
黒田:「どの可能性もゼロではない。思いつく可能性を全て調べよう。」
白木:「犯行期間も短期ではないところを見ると、衝動的に…って感じか?でも、衝動的に*
黒田:「理由がどうあれ、今までの被害者の全てがそれで死んでるんだ。現場周辺の聞き込みと刃物を扱う小売店、サービス施設、とりあえず全部を視野に入れて調査するぞ」
白木:「あぁ」
黒田:「…大人じゃない可能性だってある…今の世の中、誰がどんな理由で人殺しをするかなんて、想像できやしないんだ…」
白木:「黒田…」
黒田:「誤って人を手にかける事だってある。次の被害者が出る前に出来ることはやろう。」
白木:「さすがだな…『飲まれるな』とか言っておきながら、お前が一番熱心だ。一体どんなボーダーラインを引いて捜査してるんだ?」
黒田:「…私情を挟まずに仕事をしているだけさ。」
白木:「一度は言ってみたいもんだな…でも、それは境界線ギリギリだ。俺は踏み込みきれない…俺は俺のやり方で犯人を探すさ」
黒田:「そーしてくれ。俺のいる場所は…ロープの上だからな。」
0:後日
衣更:「ねぇ、最近遊ばないね?なんで?」
久世:「いい人がいないんだよ。『神様になれそうな人』がさ」
衣更:「変なこだわり…久世は、遊べるなら誰でもいいんじゃないんだね。」
久世:「前にも言っただろ?『神様を探してる』って」
衣更:「僕の神様は、楽しく遊んでくれる人…でも、久世は違うの?」
久世:「僕の神様は、衣更の神様とは少し違う…『僕の神様は』……。」
衣更:「あ、久世ご飯の時間だよ」
久世:「…先に行って」
衣更:「え?」
久世:「アイツは僕がいると機嫌が悪いんだ…気味悪がってるのかなんだか知らないけと、すぐに叩くし…八つ当たりして他の子を殴るし…だから、僕は後でいい」
衣更:「………なら、僕も後にする!」
久世:「お前はちゃんと食べろよ…ガリガリじゃんか」
衣更:「いーの!久世が食べないなら、僕も食べない!一緒に行かないなら、一緒にいる!」
久世:「……なにそれ。後で腹減っても何も出てこないよ」
衣更:「いーの!」
久世:「…わかったよ。」
衣更:「へへっ」
久世:「……ほんとにお前は、子供だな…」
0:
白木:「*
黒田:「だな…こっちも同じだ。」
白木:「こんなにも犯人像が浮かばないこともあるんだな…」
黒田:「被害者に接点がないと*
白木:「だな…」
黒田:「(小声)…頼むから、子供がクロはやめてくれよ…」
白木:「そう言えば…」
黒田:「…なんだ?」
白木:「いや、事件とは別の話で……。現場周辺に児童施設があったんだが、そこの所長が児童を虐待してるって*
黒田:「は?行政は動かないのか?」
白木:「かなり*
黒田:「…ただ?」
白木:「…みんな、細いらしい。」
黒田:「…細い?食事は与えられているはずだろう」
白木:「あぁ、ご飯を与えていないって事は無いようだ…帳簿で食材の管理もしてあったらしいし……平均的な食事は取れるはず…でも、何となくその噂が気になって施設を見に行って…」
黒田:「…なぁ、お前は、何をそんなに気にしているんだ」
白木:「……そこで見た子供が、2人……不気味なくらいに俺を見てたんだ…なんと言うか、品定めしているみたいな…子供にビビるとか、ありえねぇって思ったけど、あの2人は異常で、異質だった。」
黒田:「施設…お前がそこまでビビるなら、一応見に行くか。通りがかりにチラ見する程度になるだろうがな」
0:
衣更:「この前の人、なんだか不思議な人だったね…!」
久世:「この前?衣更がずっと見てた人?」
衣更:「そう、ギョーセーキカンの人達みたいに作り笑いしてなくて、攻撃してくるみたいな怖さもなくて…不思議だった」
久世:「まぁ、僕らと目があった時に固まってたし…もしかしたら、警察の人かもよ?ほら、よく聞くじゃん『警察の勘』ってやつ。あれが働いて何かを感じ取ったのかも」
衣更:「ケーサツ…その人は、僕たちと遊んでくれるかな」
久世:「『ごっこ遊び』で終わらないなら、遊びたいね。でも、捕まったら、僕たちは別の場所に行かなきゃならない。ここよりいいところかどうかは知らないけど」
衣更:「…久世、どーする?」
久世:「どっちかが死ぬかもしれないよ。捕まるかもしれないよ。2人して地獄行き決定だよ。それでも『遊ぶ』なら、やってみようか」
衣更:「いいの!?」
久世:「今までみたいに恐怖で黙らせて『遊ぶ』事は出来ない。手段を変えよう。」
衣更:「どーするの?どーやって*
久世:「…頭良さそうだったし、変なことしてすぐ捕まりたくない…そうだな……」
0:-黒田と白木は児童施設に向かう
白木:「許可は取れたが時間はそんなに多くない」
黒田:「匿名からの事件に関する情報を得たって…随分それっぽい嘘をついたもんだな」
白木:「嘘も方便ってな。上手く使えば嘘も理由になる。」
黒田:「違いない…で、どの子だ」
白木:「…えっと……」
-鋭い視線を向けて、怪訝な顔で久世と衣更を見つける黒田
黒田:「……いや、いい。見つけた」
白木:「え?」
久世:「……おじさん達、僕たちを探してるの?」
白木:「…この子達だ」
衣更:「僕たちに何か用?」
黒田:「(優しい声で)この近くで怖い事件が起きてね、その時にここの施設の子が付近に居たって情報を貰ったんだよ。夜遅くの事だったから、きっと心配したんだろうね。…何か知らないかい?」
衣更:「……ふぅん?」
久世:「知ってたら?」
白木:「(優しい声)少しお話をさせて欲しいな、何を見たとか、怪しい人はいなかったか…とか」
久世:「(即答する)知らないよ」
黒田:「……え?」
衣更:「何も見てない。怖い人も、怪しい人も、怖い事件も、何も知らない」
黒田:「……そ、そうか」
白木:「(小声)黒田…こんなにハッキリ…しかも即答するか?怯える様子もないし…警察が来て『怖い事件』って言われて、怯えない子供なんかいるのか?」
黒田:「(小声)知らねぇよ…」
白木:「(小声)でも…」
黒田:「(名刺を取り出しながら)…もし何か知ってることがあったら…ここに電話してくれ」
衣更:「…わかった。」
黒田:「行くぞ白木」
白木:「え、あぁ…」
衣更:「……」
久世:「……」
0:-静かな瞳で黒田と白木の背中を見送る久世と衣更
衣更:「気付かれたのかな?僕たちがやったって」
久世:「さぁね、でも、名刺をくれたおじさんは…頭が良さそうだった…『試してみたく』なった…」
衣更:「…やる?」
久世:「……うん、やろう」
0:
白木:「あの子たち、本当に何も知らないんだろうか…」
黒田:「さぁな、でもあの落ち着き様はかえって不自然だ…」
白木:「不気味だっただろう?」
黒田:「……そうだな」
白木:「どうする」
黒田:「…しばらく様子を見よう」
白木:「わかった」
0:黒田の電話が鳴る
黒田:「……?さっきの施設からだ」
黒田:「…はい、もしもし」
久世:「もしもーし、さっきはどうも」
黒田:「……あぁ、名刺を渡した子か…君の名前を聞いてもいいかい?」
久世:「…久世」
黒田:「……久世。」
久世:「さっきおじさんが言っていた怖い事件…実はね、変な人を見て後を追ったんだ。そしたらね、山奥の小屋に行くのを見たよ」
黒田:「…本当か!?」
久世:「うん、でも、僕らみたいな子供じゃないと行けないような細い道をいくつも使ってた。」
黒田:「構わない、教えてくれ!」
久世:「…わかった。でも今日は外に出れないから、また今度ね」
黒田:「そうか…わかった、また電話してくれ」
久世:「はぁい。」
白木:「…なんだったんだ?」
黒田:「……犯人の手がかりを知っている…と」
白木:「はぁ!なんだってあんなガキが!」
黒田:「俺が知りたいね…後日また電話が来る。それまで待とう」
白木:「はいよ…」
0:
衣更:「上手くいった?」
久世:「…多分。」
衣更:「なら、あとは遊ぶだけだね!」
久世:「……でも、電話のおじさん…あの人は難しいかも」
衣更:「…なんで?」
久世:「不思議なんだ…あのおじさんは、こっち側の気がする…僕たちと同じ。」
衣更:「…ふぅん?なら、沢山遊んでくれるね!きっと!」
久世:「…そうかもね」
衣更:「楽しみだなぁ!」
久世:「…」
0:
黒田:「…もしもし」
久世:「やぁおじさん。この前の電話の事だよ。」
黒田:「あぁ。その電話を待ってたよ。場所はどこだ、どこに向かえばいい」
久世:「せっかちだなぁ…17時に僕らの施設に来てよ、外出届を出してあるから帰りは遅くなっても大丈夫。お迎え、お願いね」
黒田:「…わかった。相方も一緒だが、構わないか?」
久世:「もちろん。僕も衣更が一緒だから問題ないよ」
黒田:「…衣更…?あぁ、隣にいた子か」
久世:「そう。僕らはいつも一緒なんだ。…じゃ、17時に」
黒田:「わかった。」
白木:「…17時に、施設。」
黒田:「そうだ」
白木:「誘き寄せられてるような気がする…気をつけよう…」
黒田:「あぁ」
白木:「でも、どうしてあの二人が犯人の手掛かりを…」
黒田:「さぁな、でも、行けばわかるさ…多分な」
白木:「…嫌な予感がする…」
黒田:「…」
0:
久世:「こんにちは。あ、もうこんばんわかな?」
白木:「どっちでも良い、早く案内してくれ」
久世:「せっかちだなぁ…おじさん、彼女いないでしょ?」
白木:「余計なお世話だ!」
黒田:「白木…よせ。」
白木:「…」
黒田:「久世、と言ったな。すまないがこちらも仕事中でな。時間が惜しい。」
久世:「わかったよ。」
白木:「…相方はどうした」
久世:「相方…?あぁ、衣更?先に行ってるよ」
黒田:「…一緒だと言っていたのに?」
久世:「なんでもいいでしょ?関係ある?」
黒田:「…いや」
久世:「でしょ?さ、行こうか」
0:(少し間を開けて)
久世:「ここだよ」
黒田:「…ここは…」
白木:「…廃墟?」
久世:「そう、施設の周りを散策してる時に見つけたんだ。施設からはちょっと遠いけど、僕らの秘密基地!」
白木:「…なぜ君たちの秘密基地に案内を」
久世:「…それはね」
衣更:「(背後から忍び寄って白木を襲う)…っ!」
白木:「あがっ…!」
黒田:「白木!……どういう事だ…!」
久世:「ねぇおじさん、犯人を捕まえる時って、何を考えているの?」
黒田:「…何だと?」
久世:「必死になって手がかりを追って、色んなことを線で繋いで……その真ん中の犯人を探して、そして捕まえる。その時の気持ちを教えてよ」
黒田:「……なんでこんなことを。って、いつも思ってるよ…何がこいつをそうさせたんだってな……そして、捕まえる時はいつもこう思う…二度と同じような事件が起こらないでくれってな…」
久世:「優しいんだね…」
黒田:「それが仕事だ…!」
白木:「…っ、いてて……急に何しやがる!」
衣更:「あらら、やっぱり気絶させなきゃダメかァ…ざんねん」
白木:「はぁ!?」
衣更:「おじさん綺麗なカラダしてるから、『遊びたく』なるんだぁ…そのカラダを作っている線をなぞって、綺麗な赤い血が流れるのを見たい…!おじさんはケージさんだから、きっと悲鳴も上げずに耐えてくれる……!だよね……?」
黒田:「…おい、コイツ…狂っているのか……」
久世:「衣更は施設に来る前、遊びと言われて両親から爪を全て剥がされたんだ。」
黒田:「……っ!?」
久世:「それで壊れちゃった…頭の線がね、切れちゃったんだ。それから衣更は人間のカラダに興味を持って、『*
黒田:「……まさか…」
久世:「そう。血管を綺麗に切っていたのは衣更。でも僕は……」
黒田:「……なっ!!」
0:素早く黒木の間合いに入り、カッターナイフを喉元に当てる
久世:「僕はね……僕を理解して僕を選んでくれる人を…『神様』を探しているんだ」
黒田:「か、かみさま、だと…?」
久世:「そう、神様。僕だけの、僕だけを見てくれる、僕を理解してくれる、たった一人の神様」
黒田:「そんなもの、いるわけが無いだろう……!人は等しく人であることしか出来ない…!」
久世:「……なら、どうして宗教は存在するの?」
黒田:「……!」
久世:「僕の両親はね、変な宗教にハマって、どんどんおかしくなって行った……そして、僕を見なくなった。僕のことを忘れていった…どれだけ名前を呼んでも振り向きもされない…手を伸ばしても握って貰えない…」
黒田:「なら助けを求めればよかったんだ……!なぜそうしなかった……できない理由でもあったのか!?」
久世:「変な宗教はインターネットも電話も禁止だった。だから家には外と繋がるための手段がなかった。鍵は何重にも掛けられて、家の中と宗教施設だけが僕の世界…どうやって助けを求めれば良いの?」
黒田:「……それは」
久世:「だから僕は、『僕の神様』を探すことにした。僕を理解してくれる、僕を見てくれる、僕を離さずに僕だけのために一緒にいてくれる人……」
黒田:「それは神なんかじゃない、依存だ……!」
久世:「……おじさんは、やっぱりこっち側なんだね。」
黒田:「なんだと……」
久世:「ちゃんと僕を見て、理解しようとしてくれる。普通はすぐに捕まえて精神病院かどこかに連れていくはずなのにさ。」
黒田:「どんな理由があったとしても、事件を起こした人間の思考は1度汲み取る必要がある……なぜそうするに至ったのか、何がそうさせたのか……ただそれだけだ!」
久世:「なら、僕を理解してよ」
黒田:「…は?」
久世:「衣更はあの通り、頭がおかしくなっちゃったけど、僕は違う。僕は誰も傷つけない。理解して欲しいだけ。僕という人間を理解して、僕に寄り添って欲しいだけ…ただそれだけなんだ」
黒田:「……できない、と言ったら…?」
久世:「そしたら、衣更がおじさんを殺すだけだよ。」
黒田:「……っ!白木!!」
衣更:「あははははははははっ!すごい!凄いねおじさん!!こんなに沢山血が流れてる!!赤くて綺麗!!今まででいっちばん綺麗!!!痛いはずだよね!?今まではこれだけ傷つけたら…泣いて叫んで、助けて!!って言うはずなのに!!悲鳴ひとつあげない…!苦しい顔をするだけぇ……!!」
久世:「ああなりたい?」
黒田:「白木!返事しろ、白木!!」
白木:「……っ、キレイに、血管、狙ってきやがって……痛てぇなんてもんじゃねぇや…意識、と、ぶ……」
黒田:「白木、しっかりしろ!!」
久世:「おじさんと話してる間に、そっちのおじさんは随分遊ばれちゃったね…そろそろ死ぬんじゃない?」
衣更:「あはははははは、ははっ、あははは!!!!まだだよぉ!まだなぞってない線が沢山あるんだから!!まだ起きててよ!まだ生きててよぉ!!!」
久世:「あんなに壊れた衣更は初めて見た。」
黒田:「お、おい、辞めさせてくれっ!白木が死んじまう!!頼むっ!!」
久世:「無理だよ、流石にあれだけ壊れた衣更は殴っても止まらないよ」
黒田:「ならどうしたらいいんだっ!!」
久世:「殺せば?」
黒田:「……は?」
久世:「殺せば、止まるよ」
黒田:「お前、何言ってんだ…友達だろう?」
久世:「友達……そうかもしれないね、でも、ただの他人。僕にとって衣更は、なんかやたら着いてくるやつ。それくらいだったんだって、今気付いたよ。」
黒田:「一緒にいたんだろ……?なのに、なぜそんなにっ!」
久世:「興味が無いからだよ。」
黒田:「興味……?」
久世:「そう、興味。僕にとって衣更は他人。決して『僕の神様』になることは無い同じ施設に暮らすひとりの人間。ただそれだけ。でも、おじさんは違う。」
黒田:「何が違う…他人だろう……!」
久世:「だっておじさんは……(言いかける)」
衣更:「ねぇ!ねぇ!久世ぇ!!このおじさん、動かなくなっちゃった!!ねぇ!起こして!!ねぇ!!」
久世:「…はぁ……面倒くさい……」
黒田:「し、らき……?」
久世:「(刃を出したまま白木の元に行く)……なんだ、死んでるじゃないか」
黒田:「は……?」
久世:「衣更、やりすぎだよ。
僕がおじさんと喋ってる間に、こっちのおじさん死んじゃったじゃないか、血の流しすぎで。」
黒田:「しらき……白木が、死んだ……ウソだ……嘘だよな、おい白木……白木っ!!」
久世:「死んだってば。すごいねこのおじさん。悲鳴ひとつ上げずに、静かに衣更に殺されちゃったよ…」
黒田:「(衣更に殴り掛かる)お前……っ!!!」
衣更:「わっ!!やだっ!!」
黒田:「(白木の血が着いたナイフを振り回される)……っ!」
久世:「ちょっと衣更、僕にあたって怪我したらどうするの?」
衣更:「だって、このおじさん怖い!!遊んでくれなさそうだし……このおじさん嫌いっ!」
久世:「…本当に面倒くさいね、君……」
衣更:「っ!ねぇ、…く、ぜ」
黒田:「……っ!?」
久世:「(衣更のお腹を刺す)」
衣更:「くぜ、いたいよ……なに、したの……?」
久世:「うるさいんだよ。毎日毎日僕の周りをうろついてきてさ……君の悪趣味に付き合ってた僕の身にもなってよ……僕が見つけた人…神様になってくれそうな人を全部殺してさ。嫌だった……邪魔されるのが、すごく嫌だった…話は噛み合わないし、人を傷つけることしか考えてない。僕は違う…僕は、僕を見てくれる人をずっと探してた……なのに、なのにっ……邪魔だった。ずっとずっと、衣更が邪魔だった……!」
衣更:「ねぇ、くぜ……僕のこと、キライなの……?だからこんなに痛いの……?いたいよ、痛いよぉ、久世ぇ……」
黒田:「やめろ……それ以上はダメだ…死んでしまう……殺すな!」
衣更:「久世……だいすき……」
黒田:「やめろぉぉぉぉぉ!!」
久世:「……。」
黒田:「…殺すこと、無かっただろう……」
久世:「……」
黒田:「殺人自体はあの子がやってしまった罪だ…一緒に更生院に行ってまたやり直せる未来があったかもしれないのに……」
久世:「あれがやり直せるって、本気で思ってる?」
黒田:「時間がかかったとしても!!罪を償い続けて、真っ当に生きる事が出来たはずだ!!」
久世:「真っ当って何?真面目に仕事して、なんの罪も犯すこと無く、ただ平凡に暮らすこと?」
黒田:「…それが出来たかもしれないだろう」
久世:「綺麗事だね。」
黒田:「…お前は、何を理解して欲しいんだ……」
久世:「……?」
黒田:「お前の何を理解すれば、お前は正しくあれる…」
久世:「……何それ。」
黒田:「正しくお前を理解すれば、二度とこんな事は起こらない…誰かに依存し続けて、道を踏み外すようなことはしなくなる……神様とやらが欲しいなら俺がなってやる……何をすればいい、何を理解して欲しい……」
久世:「……ねぇ、おじさん本当に、さっきのおじさん…?」
黒田:「俺は俺だよ……」
久世:「仲間が死んじゃって魂が抜け落ちたみたい……さっきのおじさんとは全然違う。自然に相手を理解しようとして、勝手に境界線を超えて心臓を鷲掴みにしてくるみたいな……さっきのおじさんはそうだったのに…。なんだ……僕の目は、やっぱりまだ人をちゃんと理解してないのか……」
黒田:「…教えてくれ……久世、俺は何を……」
久世:「…なんだ、おじさんは『ただの人』だったんだね」
0:
白木:「【アナウンサー】次のニュースです、N県T市の山林で子供と大人2名の遺体が発見されました。子供の身元は分かっておりませんが、発見された大人2名は県警の刑事、黒田スグルさんと白木リョウイチさんで、ふたりは事件を追って行動を共にしていたとの事です。詳しい情報を県警が調査中との事です。また、子供の身元に関しても合わせて調査されるとの……」
久世:「…神様は見つからなかったけど、自由は手に入れたよ、おじさん」
終
暗中模索、そして神に届くまで。 夜染 空 @_Yazome_
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます