5 年8カ月目 自粛
俺(詩信)は本心を隠したまま高校まで上がった。
我ながら良くできたものだと感心している。
俊(しゅん)のみならず、同じ地域に住む友人達からも疑われる事は一度も無かったからだ。
そして丁度この頃、新型コロナウイルスにより世界は混乱していた。
当初こそ、直ぐに収束するかと思われていたその波は、俺達の住む関西圏の片田舎まで届いた。
世にいう緊急事態宣言である。
お互いの、いや、日本中の学校は休校を余儀なくされ、高校で新しく出来た友人とも会えなくなってしまった。
市、否。町を跨ぐ外出ですら顔の無い輩から正義の鉄槌を下されてしまう状況。そうなると必然暇を持て余す事になるので、俺は俊の家によく作ったご飯やらクッキーなんかを携え行くようになった。
2人でやる事は決まって近所の公園までランニング、モンハン、読書、学校の課題、昼寝のどれかだった。
だが、この時のルーティンにより俺は心を揺さぶられる事になる。
それというのも、昼寝をする時に決まって俊は俺を抱きしめて寝るのである。
俊は寝る時に必ず何かに抱きついて寝る習慣があり、俺はその他のぬいぐるみや抱き枕を抑え、見事その座を勝ち取ったという事を後から知った。
兎に角、俺にとっては嬉しい時間であった。
だが、同時に苦しくもある。
何故ならこの時の俺は15歳、つまり下品な話であるが性に対して多感な時期である。
想いを寄せる相手が横で、否、距離にして5cmの所で寝息をたて、ランニングを行い熱を帯びた脚を絡ませ、力を加えると折れてしまいそうな腕を俺の胴体に纏わせてくる。
健全な男子高校生がこの据え膳とも取れる状況に我慢出来る訳もなく、何度目かの昼寝の際に遂に俺は俊の身体に手を伸ばしてしまった。
とは言え、手を出した訳ではない。
文字通りに手を伸ばし、俊の身体に腕を乗せたのである。我ながら奥手だと思いつつ、反応を伺った。
俊は特に気にも留めてない様だった。
初めて腕を乗せた時は俺の鼓動が聴こえないか不安になったのだが、それも慣れ、次第に行動に大胆さが帯び始めた。
腕を乗せるではなく俊の様に纏わせ、俊の様に脚を絡ませ、俊の様に寝息をたてた。
この頃になると、どちらがどちらを抱いて寝ているのか分からなくなってきていた。
そして、その時同時にある考えが俺の脳髄を支配していた。
俊に挿入れたいと思うようになったのである。
何度も、何度も、何度も、何度も、魔が刺しそうになったが、その度に思い留まる。
何時でも出来てしまう、だが、もし一度してしまうともう二度と友人としても扱われず、こんな時間は訪れない。
そう思い、衝動を全て帰宅後の自慰に充てた、八つ当たりに近い自慰の的は勿論俊だった。
そもそもの話だが、自慰行為を行う際思う相手は何時だって俊であった。
裏ビデオは勿論観たことはある。だが、俊との行為を夢想した時に比べると遥かに及ばなかった。
俊の熱を直に感じている今となっては夢想する行為がより一層の艶を帯びてしまっているのである。
しかし、どれだけ艶、色、熱を帯びた所で終わってしまうと本物では無いという事実が、虚無感が、俺の肺を押し潰しに来るのである。
幾度目の虚無感を残した後、俺はこの気持ちを伝える覚悟をした。
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