第5話  兄弟の絆

 研究所。

 帰還した姉弟を見て、兄・将武が駆け寄った。

「二人とも無事か!?」

「ギリな」

 コウキが笑い、リナは深く頷いた。

 父・善和は黙って娘を抱きしめた。

 だがリナは小さく突き放すように、問いを投げた。

「パパ。私は兵器なの? ただの実験体なの?」

「違う。お前は娘だ」

 即答だった。だが、リナの胸にはまだ影が残っていた。

 藤田所長が声を掛ける。

「感傷に浸る暇はない。我々は極秘に動いているが、敵も本気で仕掛けてきた。次はもっと大きな波が来る」

     *

 その夜、簡単な検査を終えた姉弟は食堂に集まった。

 将武が持ってきた紙袋を机に置く。

「はい、ジャンボハンバーガー三つとポテト山盛り」

「お前、どこでそんなの買ってきたんだ」

「お前たちが目覚めて最初に食うのはジャンクって決めてたんだよ」

 コウキが吹き出し、リナも思わず笑った。

 三人並んでがつがつと食べる。

 久しぶりに、普通の兄妹らしい時間が戻ってきた。

「姉貴、さっきは本当にすげえ動きだった」

「……自分でも驚いた。勝手に体が動いて……」

 リナは拳を握りしめる。

「でも、コウキがいなきゃ、死んでた」

「お互い様だろ。俺たち、セットじゃなきゃダメなんだよ」

 そう言って笑う弟の顔は、昔と同じ無邪気な弟だった。

     *

 だが、休息は長くは続かない。

 その頃、都内の別の闇では「新世界真心会」の幹部たちが集まっていた。

 失敗した襲撃の報告に、教祖・文明醒の冷たい瞳が光る。

「日本は邪魔だ。愛国心を持つ民族は厄介だ。だが――潰す手はある」

 暗い部屋に響く低い声。

「次は、もっと大きな炎で包み込め」

     *

 研究所の廊下。

 リナは兄弟と並んで歩きながら、静かに呟いた。

「……どんな敵が来ても、私は逃げない」

「俺もだ」

 コウキが超電磁銃のケースを叩いた。

 その横で将武が笑う。

「やれやれ、俺の出番はあるのかね」

「あるわ。兄貴はご飯係」

 リナがからかい、三人は笑った。

 ――兄妹の絆。

 それは新しい嵐を前にして、ようやく強く結ばれつつあった。


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