親友と恋人
新学期が始まって約一週間後、優が学校に戻ってきた。
夏休み前と変わらず普段通りに接して、しかしなるべく玲奈の話は避けて、そして彼女が一人にならないように。
決して口には出さないが、夏美含めクラスメイトはどこか彼女に気を遣いながら過ごした。
「ねぇ、ちょっといいかな?」
その日の授業終わり、学内のカフェテリアで明香と課題の話をしていたところ、優が話しかけてきた。
「う、うん……」
優は今日この時まで夏美たちと話をしていない。
向こうから話しかけるとしたら、やはり例のあのこと以外にないだろう。夏美たちは身構えた。
優は近くの席から椅子を持ってくると、向かい合う夏美と明香の間に置いて座った。
「玲奈の写真を見せてほしい。……その、合宿のときの。お願い……」
てっきり合宿に参加してた自分たちを責めるのではないか。そう思って内心ビクビクしていた夏美は、頭を下げる優に戸惑いつつも少しホッとした。
「う、うん、大丈夫だよ。ちょっと待ってて」
見たい理由はあえて聞かなかったが、夏美はとりあえずスマホにある写真を見せることにした。
「えーと、こっから先が合宿のときの写真。あと、部活の方のグループなら、アルバムにまだ写真残ってたかも……」
優は夏美のスマホを手に取ると、写真をじっと見つめた。
「優……?」
ひたすら画面をスライドしていく優に明香が話かけた。
明香の声が聞こえているのかいないのか、反応がないまま指が横に動いていく。
「ごめん、ありがとう……」
スマホを夏美の手に戻してようやく聞こえた声は、小さく震えて、消えそうなものだった。
「玲奈、どの写真もいい笑顔だった。合宿は、楽しかったんだと思う。……きっと」
鼻を啜り、無理に笑顔を作りながら優は言った。
「うん……」
あの時、あの合宿で、彼女は本当に楽しそうに見えた。
だから余計に「なぜ」という気持ちがどうしても付きまとってしまう。
学校を出たあと、夏美と明香、優の三人はそのまま駅に向かった。
その道中で明香がトイレに行きたいと言ったため、駅ビル内のトイレへ寄ることになった。
夏美と優がトイレ前にあるソファで待っていると、一組の男女がやってきた。
腕を組む二人の鞄には揃いのキーホルダーが付いている。
自分達と大して変わらない歳の様子から、おそらく近くの大学に通う学生カップルだろう。
カノジョをトイレの前で見送ったあと、隣に座ったカレシを見た優は血相を変えて声を上げた。
「あ、あなた、玲奈の……!」
「え――」
突然の声にカレシだけでなく夏美も優を見た。
「ちょっと、どうしたの?急に……」
震える指でカレシを指しながら優は続ける。
「この……、この人、玲奈と付き合ってた……!」
「え?」「は……?」
夏美とカレシは互いに顔を見合わせる。
付き合っていた……?
「な、なんなんだよ、急に。つーか、アンタ誰だよ、こえーよ!」
優の急な態度に、指を指されたカレシも戸惑っている。
「この人、本当に玲奈のカレシなの……?」
正確には「カレシであっただろう人」だと思うが。
玲奈に付き合っている人がいることは知っていた。けれど、顔までは流石に知らない。
そしてその上、この人には今、明らかに付き合っていると思われる人がいる。
夏美の質問を無視して、優はそのまま男性に詰め寄った。
「三橋玲奈。……まさか、もう覚えていないの?」
相手の返答を待たぬまま優は続ける。
「二か月前まで付き合っていた、海星大の――」
優の言葉に対し、「かいせ……」と言いかけたところで、カレシはハッとした表情になった。
「三橋って、もしかしてバドの子……?」
元カレの発言に優はますます声を上げる。
「あなたのせいで、玲奈は死んだのに……!」
責めるように優が叫んだ。
「えっ?は?死んだ……?」
元カレが怪訝な顔で聞き返したちょうどその時、明香と男性の今カノがほぼ同じタイミングでトイレから戻って来た。
「ん?これ、どういう状況?」
剣幕な雰囲気を察知した明香が言った。
「今の子、誰?知り合い?」と聞く今カノに元彼は「知らん」と言い捨ててその場を去ろうとした。
「私は許さないから……!」
優がその場から逃げるように去っていく元カレたちを追いかけようとしたので、夏美と明香は必死で押さえた。
「絶対に……」
二人の姿が見えなくなると、力が抜けたように優はその場に泣き崩れた。
「あれ?浅間さん?」
泣きじゃくる優をなだめていると、聞き慣れた声が後ろから聞こえた。
ずんぐりとした見た目は学校内に限らず、外でも目立つ。
「い、今田先輩……?」
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