第1話 デスゲーム宣言
2025年11月。今年は特に短かった秋が過ぎ、もう冬が来ようとしている。
俺、愛斗誠は、慣れないスーツ姿で電車に揺られている。
大学4回生になって、俺は未だに就活を続けていた。
いわゆる、無い内定というやつだ。
俺はいったいなぜ、こうしているのか?
どうしてこうなったのか?
みんなと同じようにインターンシップにも行った。
説明会では社員の話にいちいち頷いて、教授の話よりも熱心に耳を傾けた。
それなのに……それなのに万博が終わった今でも、こうしている。
今年の4月から開催された大阪万博。
内定が決まったら、友達と一緒に行くはずだった。
友達は時期をずらして待ってくれたが、その機会はついに訪れなかった。
やがて万博の写真が送られてきた。
そこには彼女と楽しそうにパビリオンを巡る、友達が写っている。
一体、俺の何が間違っているのだろう?
自己分析という作業を繰り返すたびに、そんな疑問が湧いてくる。
これまでの人生に対して絶えず疑念を持たされている。
電車の窓に映り込んだ自身と目が合う。
その目には怒りが滲んでいるように見えた。
ポケットからスマホを取り出し、電子版の新聞に目を通す。
興味のないニュースを眺めていると、突然画面が切り替わった。
半魚人みたいなコスプレをしたやつが映っている。
まーた新しい広告か。早く終わらないかな。
「ア、アー。地球人の方々、コンニチハ。我々は宇宙人ダ」
なんの広告だ、これ。宇宙人?
これ最後まで見ないといけないのか。
「全世界のデバイスをハックシテ、話してイル」
気のせいか、周りのスマホからも聞こえるんだが。
この広告……◯ーグルのやつか?
それともAIの反逆がついに始まったか!?
馬鹿げた妄想をしつつ、広告を見る。
「我々も、バンパクに参加シタイ。出し物は既に用意シタ」
万博もう終わってますよ、宇宙人さん。
どういうセンスだこのCM。
やめた。見る気が削がれて、ホームボタンを押す。
……しかし、何度押しても戻らない。
「なんで?」
——というか、周りの人も同じ反応をしているっぽかった。
電車が駅に着く。
降りると、駅にあるデカいモニターに半魚人が写っていた。
・・・・・・
その日、万博に謎のキューブが現れた。大きさは数十メートル四方のもの。
うっすらと虹色の輝きを帯びており、ゲーミングキューブと呼ばれるようになった。
任◯堂の製品ではない。
あの広告に出ていた半魚人は、本当に宇宙人だったのだ。
◯ーグルの疑いは晴れた。
人類側はそれとなく、万博が終わったことを伝えたのだが、宇宙人は勝手に2回目をやる気だそうで、キューブを不法投棄した上に、出し物の説明をこれまた勝手に始めた。
「我々の出し物は、デスゲーム!!デス」
普段声を出さないのか、声量の調節をミスっている。それにしても“デスゲーム”とは意外だった。誰も行かないだろ、そんなの。宇宙人の話は続いた。その要約はこうだ。
・地球で流行っているデスゲームを作ったから遊んで欲しい。
・プレイヤーは現地で調達する。成人であれば、男女問わない。
・参加したいプレイヤーは万博会場へ。足りなかったら、こっちで選ぶ。
・負けたらちゃんと死ぬから、クオリティには安心してほしい。
・最後の1人には、人類の発想で可能な範囲の願いを叶えます。
……というようなことだった。侵略じゃねえか。
それからインフルエンサーとかが、話題集めのためにキューブを見に行った。
キューブの前で参加を表明すると、腕に輪っかのような紋章が浮かび上がる。
そんな映像が次々と投稿された。
インフルエンサー同士のデスゲームはちょっと見てみたいと思わせた。
プレイヤーが登録されると、キューブに数字が表示される。
『ノコリ、90ニンと』ある。
プレイヤーの総数はおそらく、100人なのだろう。
当然のことだが、すぐに会場は封鎖された。プレイヤーが登録できないように、政府が対策したのだ。しかし、それでも、少しずつだがプレイヤーは集まっていた。封鎖を越えてまで、ゲームに参加したい物好きがいるらしい。
宇宙人が言った開催日までは、あと1週間。不謹慎だけど、ちょっと面白そうだな。
そんなことを思いながら、面接の会場へと向かった。
1週間後には、そのプレイヤーの1人になっているとは、知るよしもない。
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