第3話 星の王女と見合い

広大で華やかな王宮の庭園。


夕暮れの光が、色とりどりの花々を黄金色こがねいろに染めていた。


その一角に設けられたガゼボで、アゼルは隣国の王女、アリシアを待っていた。


アゼルは、この見合いが政略的なものだと割り切っていた。


父であるライアス王からは「隣国との友好関係を築くため」と説明され、自身に拒否権はないことも理解していた。


だが、彼の胸にはわずかな抵抗感があった。


自身の運命が、ただの政略で決められることへの、根深い違和感だ。


やがて、小道を優雅な足取りで歩いてくる一人の女性が見えた。


深い青色のドレスを身につけたその姿は、まるで夜空を切り取ったかのようだ。


彼女こそが、隣国の王女、アリシア。


「第一王子、アゼル様。お初にお目にかかります。隣国メテオラ王女、アリシアと申します」


アリシアは、型どおりの挨拶を微笑みとともに告げた。


その瞳は、彼女のドレスと同じ、深く澄んだ青色だった。


アゼルは、ただ美しいだけの女性ではないことを直感した。


「アゼルだ。……堅苦しい挨拶は抜きにしよう。どうせ、我々の運命は、この場で決められているのだろう?」


アゼルは単刀直入に言った。


彼の言葉には、皮肉と、わずかな諦めが滲んでいた。


アリシアは一瞬、驚いたように目を見開いたが、すぐに柔らかく微笑み、ガゼボの椅子に腰を下ろした。


「おっしゃる通りですわ、アゼル様。このお見合いは、両国の未来のためにと、陛下方がお決めになられたものですから」


「……あなたは、それでいいのか?」


アゼルは尋ねた。


彼の問いには、アリシア自身の意思を知りたいという、純粋な好奇心が込められていた。


アリシアは少し考え、ゆっくりと口を開いた。


「わたくしは、この結婚を政略だけとは思っておりません……。確かに、両国の平和と繁栄を願う王族としての義務です。ですが、もしこの結婚によって、遠い夜空の星々のように、互いの王家が光を放ち、より美しく輝くことができるのなら、それは喜ばしいことではないかと。」


アゼルは、彼女の言葉に静かに耳を傾けた。


彼女は、与えられた運命をただ受け入れるだけでなく、その中に自分なりの意味を見出そうとしている。


その姿勢は、アゼルの心に、これまでになかった感情を呼び起こした。


「美しい言葉だな。だが、星は遠くにある。互いに触れ合うことも、温かさを感じることもない」


「それは、見ている星が、遠すぎるからではないでしょうか? 星は、近くで見れば、熱を帯びた、力強い光を放つものです。……私たちも、そうであると信じておりますわ」


アリシアはそう言って、優しく微笑んだ。


その言葉は、アゼルの心の壁に、柔らかな光を灯した。


この出会いは、政略結婚という枠組みを超え、アゼルとアリシア、二人の間に確かな絆の萌芽を生み出した。

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