婚約破棄された悪役令嬢、王子を取り戻そうと魔法を学んだら、魔王討伐パーティーに勧誘されました
@mimo1
第1話
「君との婚約は破棄する」
「え……?」
一瞬、何を言われたのか理解できなかった。
いつもの昼下がり。私はこの国の第一王子、レオンハルト殿下に呼ばれて、色鮮やかな花が咲き誇る庭園でお茶をしに来たはずだった。
レオンハルトと、私――公爵家の長女セレナは、幼馴染であり、婚約者でもある。
私たちは互いに愛し合っていた。……少なくとも、私はそう信じていた。
けれど、彼が私に会うたび贈り物をするものだから、城の人々からは「殿下が貢がされている」「金の
私は一度だってねだったことなどないのに。
以前は王様や王妃様も私を庇ってくださった。
けれど最近は、私が城に顔を出すと「また来たのか」とため息をつかれるようになった。
レオンハルトから贈られる物は日に日に
お城で受け取りを断れば、今度は屋敷に送りつけられる。止まらぬ贈り物に、両親は困り果てていた。
――そして今日。
部屋に迎え入れられた時、彼の表情は少し冷たかった。けれど私は気のせいだと思い込んだ。
いつもと同じようにメイドがお茶を注ぎ、私と彼は向かい合って他愛もない会話を交わす。
最後には必ず「愛している。あと2年、君が16歳になったら結婚しよう」と愛を囁いてくれる。
そして、今日もそうなのだろうと、疑いもしなかった。
なのに、どうして。
「好きな女性ができたんだ。セレナにも紹介するよ」
そう言って、レオンハルトは立ち上がり、一人の女性を部屋へ招き入れた。
部屋に入ってきたのは、質素な平民の服をまとい、化粧気もない地味な女性。
「彼女を愛している。心の清らかな女性なんだ」
そう言って彼は、その娘を慈しむように見つめた。
……え?
彼女の顔に黒い
私は目をこすって、もう一度、彼女を見る。
変わらず、彼女の
ふと、すぐそばで、キラリと何かが光ったのに気づく。
レオンハルトの頭から天井に伸びる、いくつかの線。
糸のようなものが数本、キラキラと光っている。
あれは、何? まるで、人形を操っている糸のような…。
まさか、レオンハルトは操られているの…?
「レオンハルト、何かおかしいわ!あなたの上に糸のようなものが…!」
そう言って、私はレオンハルトに近づき、彼の頭上の糸を払おうとした。
しかし、そのキラリと光る糸に触れることが出来ない。
どうなってるの? 確かに糸のようなものが見えるのに…。
私が混乱していると、レオンハルトは苛立ったように腕を振り払った。
「何をしているんだ。おかしな真似はやめてくれ」
「違うの!本当に見えるの…!それに彼女も、なんだか普通じゃないわ!」
「何を言ってるんだ。彼女のことを悪く言うことは許さない。」
レオンハルトの声は冷たく、瞳は
「彼女は美しい。君のように
――そんな、どうしてこんなことに…。
その時、不意に頭の奥に声が響いた。
地を
『……ほう、この糸が見えるのか。だが、
突然、激しい頭痛に襲われ、視界が
***
次に目を開けた時、見慣れた自室の天井があった。
どうやら私は、気を失ってしまったらしい。
窓の外はまだ明るく、そんなに時間は立っていないように見える。
倒れた私をそのまま、公爵家の屋敷へ送り返すなんて…。
……お城で休ませることすらなく?
以前の優しかった彼じゃない。
かつての彼なら、きっと私を気遣ってくれたはず。
それとも、もう婚約者じゃなくなった私には、そんな気遣いはしないということなの?
レオンハルトは誰にでも優しい人だった。
城内の使用人にも、城下町の人々にも。
王子でありながら、よく城を抜け出しては町の人々と触れ合っていた。
困っている人を助け、重い荷物を運び、小さな子どもたちと遊ぶ。
そんな姿を町の人々は温かく見守り、私もまた、そばで見ていた。
なぜ詳しいのかと言えば――私自身、幼い頃によくレオンハルトと一緒に、城を抜け出していたからだ。
私たちは小さい頃にお茶会で出会って、それから何度も顔を合わせるうちに仲が良くなって。
お城に私が遊びに行ったり、公爵家の屋敷にレオンハルトが遊びに来てくれたり。
親からレオンハルトとの婚約を聞いた時は驚いたけど、私たちは自然とそれを受け入れていた。
その時にはもう、お互いに惹かれ合っていたから。
いつからだったか、手が触れると照れてしまうようになって。
そしてそれは、レオンハルトも同じだった。
婚約者と決まってからは、一緒にお城を抜け出して遊ぶことはなくなった。
多分それまでは、周りも見逃してくれていたのだと思う。
王家に嫁ぐための勉強が始まった初日「王子妃として、ふさわしい行動じゃありません!」と教育係に厳しく言われた。
あの頃から、レオンハルトは贈り物をくれるようになった気がする。
彼は変わらず城下町に通い、そこでの出来事を楽しそうに話してくれた。
その話を聞くのが、私は大好きだった。
町の人々の声も、彼の優しさを物語っていた。
「この前、殿下がうちの子と遊んでくれね。すごく喜んでいたのよ」
「うちの店に来てくれた時は、重い果物の入った木箱を運んでくれてね。腰が痛かったから助かったよ。殿下はきっと立派な王様になるね。楽しみだよ」
変わらぬレオンハルトの姿に、私は心から微笑んだ。
彼は皆に愛される王子だった。
そんな人のお嫁さんになれることが、嬉しくて、誇らしかった。
彼にふさわしい女性になろうと、苦手な勉強だって頑張れたのに。
――それなのに。
私は婚約を破棄された。
私は自嘲する。
けれど、あの女性の姿も、頭に響いた声も、明らかに異常だった。
「……一体、何者なの?」
私は真実を確かめるため、再び城へ足を運ぶ決意をした。
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