第24話 真犯人の輪郭
相馬聡子は犯人ではない。
彼女は、何らかの理由で、嘘の自白をしているに過ぎない。
その事実にたどり着いた時、目の前の霧が晴れるように、事件の様相が全く別のものとして見え始めた。
もう一度、原点に戻る。
この事件の犯人は、二つのことを同時に成し遂げている。
一つは、山崎辰五郎を、密室の中で、心臓発作に見せかけて殺害すること。
もう一つは、その罪を、家政婦の相馬聡子に着せること。
聡子を犯人に仕立て上げるために、犯人は周到な準備をした。
まず、聡子が山崎に復讐心を抱き、アレルギーを利用した毒殺計画を立てていることを、何らかの方法で知った。
そして、その計画に便乗した。
聡子がアールグレイを部屋に運ぶ、その日を決行日と定めた。
犯人は、聡子よりも先に、あるいは彼女が部屋を出た直後に、何らかの方法で書斎に侵入し、山崎を殺害した。
その殺害方法こそが、「囁き声」のトリックだったのだ。
あれは、聡子が自白したような感傷的なポエムではない。
もっと直接的で、物理的な攻撃。
それによって、高齢で心臓の弱かった山崎に、ショックを与え、心臓発作を誘発させた。
だからこそ、聡子はあの声を「不気味で、何を言っているか分からない声」と証言したのだ。
それは、彼女の知らない、真犯人が用意した本当の凶器の音だったから。
そして、犯人は、聡子の毒殺計画をなぞるように、アールグレイのカップを目立つ場所に置いた。
これは、捜査の目をアレルギー毒殺へと誘導し、聡子に疑いを向けるための完璧な偽装工作だった。
手付かずだったカップにも、これで説明がつく。
犯人にとって、紅茶が飲まれるかどうかは、どうでもいいことだったのだ。
ただそこに「アールグレイ」が存在し、「聡子が運んできた」という事実さえあれば、それで十分だったのだから。
そこまで考えて、私は息を飲んだ。
なんという、冷酷で、緻密な計画。
聡子の長年の憎しみさえも、自分の犯罪を隠すための駒として利用する、悪魔のような知能犯。
そんなことが可能な人物は、もう一人しかいない。
聡子の計画を事前に察知でき、オートマタを自在に操って、未知の凶器を作り出せる人物。
そして、山崎辰五郎の死によって、最も大きな利益を得る人物。
私の視線は、容疑者リストの一点に、吸い寄せられるように固定された。
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