第24話 卑劣! サメ神さまの「エッチ触手」


「おヒメどのぉぉぉ!!」


 真なる怪獣と化したエッチ後屋ごやにおヒメがバクリとのまれてしまい、半々蔵はんはんぞうは吠えるがごとく哀叫あいきょうした。


「シャーシャッシャッ! このまま消化してやってもいいんだが、凡骨ぼんこつの嬢ちゃんひとりじゃ腹の足しにもなりゃしねェ……。おれの信念をコケにした嬢ちゃんには、極上のエッチ窮地きゅうち堪能たんのうしてもらうぜェェ!!」


「エッチ窮地きゅうち、だと……!?」


「そうだ。サメ神さま〈ひっぷ〉の胃液は、人の衣服だけを溶かすこともできるのよ……! くく、嬢ちゃんには、おれの体内で生まれたままの姿をさらしてもらうことになるッ! むろん、よけいな人間に見えることはねェからその点は安心しな。さらにこの胃壁いへきには謎のエッチ触手しょくしゅも生えている……。エッチ窮地きゅうちでもエッチ救援のこねェ、無間むげんエッチ地獄を味わいなッ!!」


「きさまッ、クソッ、クソォォォ!!」


 ――エッチ触手しょくしゅ


 これまで、聞いたことのない単語であった。

 これまで、聞いたことのない概念であった。


 その新たなる言葉を聞いた瞬間、大河たいが氾濫はんらんしたかのごとき膨大な「エッチ概念」の奔流ほんりゅうが、半々蔵はんはんぞうの頭脳に荒れ狂ったッ!


 いったいいつから触手という概念が日本人に爆誕したものか、正確に知るものはない。


 江戸時代には葛飾北斎が『蛸と海女』というエッチ触手作品をえがいたことは現代にも知られており、半々蔵はんはんぞうたちのこの戦いはそれよりも前のできごとであろう、というのが専門家たちの定説であるが、それを裏づけるものはなにもない。


 ただ半々蔵はんはんぞうは、はじめてエッチ触手の概念にふれた。

 そうして全身に稲妻を浴びたかのごとき衝撃を得たのだ。


「見てみたいッ!!」


 さけぶやいなや、高速で印を結ぶと、砂浜のなかへと両の手をつっこんだ。


「忍法・土遁どとん蔦搦つたがらめ〉の術!」


 その忍術により、なんということであろう、砂でできたツタが生え、エッチ後屋ごやの足先から胴体にいたるまで、がんじがらめに縛りつけたではないか!


「ぬおッ!」


 うろたえるエッチ後屋ごや

 一本一本はさほどのかたさではなくとも、こうまでまつわりつかれると容易には動けぬ。

 半々蔵はんはんぞうの手はまったくゆるまない。


土遁どとん火遁かとん合成〈千輪せんりん極大きょくだい爆裂弾ばくれつだん〉の術!」


 足もとになんらかの物体をこねあげつつ、さらに、


「忍法・風遁ふうとん風大砲ふうたいほう〉の術!」


 と矢継ぎ早に術を発する。

 峻厳しゅんげんな、めったに弟子をほめないことで有名だった彼の師も(忍術の部分だけ見れば)「あっぱれ!」と快哉かいさいをあげたであろう、過去随一ずいいちといっていいほどの技のキレであった。


 その最後の術により、ふわりと半々蔵はんはんぞうの足もとに風が巻いた。

 そうしてその名にふさわしく、大砲につめられたかのように、半々蔵はんはんぞうのカラダがすさまじいスピードで射出しゃしゅつされる!


 スポン、とエッチ後屋ごやの巨大なる口のなかへ、半々蔵はんはんぞうが飛びこんでゆく。

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