第22話 忍者、決死の忍術三連発


「おいおいおい、あぶねェなァ……。ポロリはもっとも危険な日常的エッチ事案、気をつけるんだな嬢ちゃん。まえにも言ったが、のぞき見なんざは天のまえに、法のまえに、まずこのおれがゆるしはしねェ。早いとこ、服を直しな……。直したら喰うから」


 そう、海藻をおヒメの胸へと投げ飛ばし、その先端の露出をはばんだのは、だれあろうエッチな話題に一家言いっかげんをもつエッチ後屋ごやその人(サメ?)であったのだ!


 エッチ後屋ごやはそう言いつつ、うしろを向いて紳士的に待機している。

 しかし喰うことは宣言してもおり、あいかわらず彼独自の倫理観がどうなっているものか、現代のわれわれにははかれようはずもない。


「助かったッ、おヒメどのッ!!」


 ガボガボと泡を吐き出しつつ、そのスキに半々蔵はんはんぞうが手で印を結んでゆく――


「臨兵闘者皆陣列在前」


 また口でも高速で詠唱えいしょうしてゆき、半々蔵はんはんぞう丹田たんでん忍力にんりょくが急激に練られてゆく――


「忍法・水遁すいとん渦状龍かじょうりゅう〉の術!」


 その術をはなつや、竜巻のごとき渦が海中に2つ立ちのぼる。


 ひとつは、おヒメと半々蔵はんはんぞうとをやさしく包みこみ、チアリーディングの組技くみわざのごとく海上へとはねあげた!

 半々蔵はんはんぞうはその勢いで無意味に大開脚をしたのち、空中でおヒメを抱きかかえて無事に砂浜へと着地してみせる。


 もうひとつの渦は、内部にやいばをひそませておいたかのような苛烈かれつさでエッチ後屋ごやを巻きこみ、その皮膚を数え切れぬほど傷つけつつ、さらに空高く彼をはねあげてみせた。


 いかに巨大なサメも、空中ではまな板の上のこいである。

 さらに半々蔵はんはんぞう詠唱えいしょうをつづけてゆく――


「忍法・土遁どとん土槍地獄突どそうじごくづき〉の術!」


 空から舞い降りてくるサメをむかえいれるように、砂浜の砂が円をえがいていき、みるみるうちに密度と硬度を増してゆく。

 そして巨大なドリルのごとき何本もの円錐えんすいへと変貌したかと思うと、つぎつぎにサメへと突き刺さる!


「忍法・火遁かとん火炎龍かえんりゅう〉の術!」


 手をゆるめることなく、さらに先ほどサメ神さま〈ばすと〉を焼きつくした術をも放つ。

 半々蔵はんはんぞうの口から出現した炎の龍は、円錐を這うようにのぼっていき、大火のごとくエッチ後屋ごやのカラダを炎上させていった。


「す、すごい……」


 おヒメが茫然と感嘆をもらすのも、当然といえよう。

 自然災害に勝るとも劣らぬ壮大な術が立てつづけにくり広げられていくさまは、現代の最先端アトラクションを体験するがごとき衝撃であった。

 まるで盛大なる送り火を中天ちゅうてんでかかげるように、空中で燃えてゆくサメを、おヒメは飽くことなくながめていた。


「おヒメどののおかげで、助かり申した……。常在じょうざい戦場せんじょう、つねに死を意識しているつもりでござったが、今回は本当にもう打つ手がないかと……」


 呼吸を落ちつけた半々蔵はんはんぞうが、あらためておヒメに頭をさげる。

 少し話をしただけであったが、おヒメはあの「ぷらいべーとぞーん」の接触への叱責しっせきなどから、エッチ後屋ごやの性質を見抜いて賭けに出たのであった。

 しかも自らはだけるのではなく、服が自然とずり落ちていったほうが手を出したくなるのではないかというおヒメの読みは、まさしく的中していた。


半々蔵はんはんぞうさま、無事でようございました……!」


 おヒメは、いつかのように半々蔵はんはんぞうへとすがりつく。

 エッチ後屋ごや説諭せつゆが影響したものかどうか、今度は半々蔵はんはんぞうもおヒメを拒みはせぬ。

 そっと、その背を抱きかえそうとした、そのときであった――


「シャーシャッシャッシャッ……」


 きわめて不自然なその高笑いが、燃えさかる炎のなかからうろんにひびいてきたのである……。

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