女友達らがクラスの陽キャ男子の彼女になってしまった結果、俺とクラスの美少女が付き合う事になった話

譲羽唯月

第1話 俺の幼馴染の様子が変わってしまった日

 進藤幸村しんどう/ゆきむら、十六歳。

 ごく平凡な高校二年生。

 成績は中の上、部活は図書部、趣味はライトノベルとゲーム。

 目立つタイプでもなく、かといって完全に影に埋もれることもない、どこにでもいる高校生だが、新学期が始まってから、幸村の心には小さな違和感が芽生えていた。


 いつも通りの日常に、ガラスにできた細かなひびのような不協和音が響き始めていた。その原因はわからない。ただ、胸の奥でじわじわと広がるモヤモヤが、幸村を静かに苛んでいたのだ。




「ねえ! 昨日バズってたあの動画、見た⁉」

「んー、昨日はちょっと忙しくて見てなかったな」

「えー、そうなの。あの配信者が昨日投稿した動画ね、凄かったんだよ。動画再生回数が一時間で五万回いってて」


 とある日の朝。教室の後ろから、クラスメイトたちの賑やかな声が響いてくる。

 いつも通りの日常のワンシーン。しかし、幸村はその会話に、なぜかチクリとした引っかかりを感じていた。

 その中心にいたのは、クラスの人気者――日高達哉ひだか/たつやだ。


 明るい茶髪に、キラキラと輝く笑顔や軽快なトークで周囲を巻き込む。まさに世間的にいう陽キャそのものだった。

 達哉の周りにはいつも人が集まり、笑い声が絶えない。

 そして今、彼と楽しそうに話しているセミロングヘアの美少女は、幸村の幼馴染である高井那月たかい/なつき


 那月とは中学生からの付き合いであり、去年までは放課後にコンビニに立ち寄ったり、くだらないことで笑い合ったりしていた。けれど、ここ最近の那月はどこか距離が遠い。

 気づけば、彼女は達哉のグループに混ざり、楽しそうに笑っていることが多くなっていたのだ。


 なんであいつと……というか、なんで、陽キャグループに⁉


 幸村は自分の席で教科書を広げながら、チラリとその光景を盗み見た。

 陽キャ特有のノリは、本とゲームを愛する内向的な幸村には縁遠いものだった。


 達哉はパーティーの主役のように振る舞い、周囲を自然と引きつける。

 一方、幸村は休み時間にこっそりライトノベルを読み進めるのが日常だった。

 那月が達哉と笑い合う姿を見るたび、幸村の胸には得体の知れないモヤモヤが広がった。


 大切な何かが、指の隙間からこぼれ落ちていくような感覚。

 そんな中、教室に入ってきたのは、もう一人の幼馴染の坂野純恋さかの/すみれ

 純恋は幸村とは小学生時代からの付き合いで、サラサラの黒髪のショートヘアに、整った顔立ちと落ち着いた雰囲気で、クラスの男子から密かに人気のある美少女だ。

 純恋もまた達哉のグループに近づき、楽しそうに話している。


 なんだ、これ……どういう事なんだ⁉


 幸村の心に、冷たい風が吹き抜けた。

 去年までは、那月や純恋と過ごす時間が多かった。

 最近は二人ともどこかよそよそしく、幸村だけが知らない世界に足を踏み入れたかのように、距離が開いていくのを感じてしまうのだった。




 ある日、教室の隅で交わされたひそひそ話が、幸村の耳に飛び込んできた。


「なあ、聞いたか? 那月と純恋、どっちも達哉と付き合ってるらしいぜ」


 その言葉は、鋭い刃のように幸村の胸を切り裂いた。

 いつも笑顔で接してくれた二人が、達哉とそんな関係になっているなんて信じたくなかった。

 近頃の、那月の遠ざかる笑顔、純恋のどこか冷たくなった視線を思い出すと、噂が本当かもしれないという重い現実がのしかかってきたのだ。


 どうしちゃったんだよ、二人とも。


 幸村はショックを受けながらも、表面上はいつも通りに過ごしていたが、心のどこかで、何かが崩れ落ちる音が響いていたのだった。




 ある日の放課後。幸村は図書部の当番のため、本校舎の隣にある別棟の図書室に向かった。

 静かな図書室には、カウンターの時計の秒針がカチカチと響くだけ。


 幸村はパイプ椅子に座り、パソコン画面で貸し出しリストを整理しながら、頭の中で最近の出来事をぐるぐると考え込んでいた。

 右隣には同じ図書部に所属するクラスメイト、日高美波ひだか/みなみがいた。


 美波は去年から図書部に所属しているが、これまで深い会話はほとんどなかった。

 彼女は黒髪のロングヘアが魅力的であり、整った顔立ちに、クールで近寄りがたい雰囲気を漂わせている。

 クラスでは委員長を務め、比較的目立つ存在だが、幸村とは部活仲間以上の関係ではなかった。


「ねえ、進藤さん。日高達哉って、どう思う?」


 図書部としての業務がひと段落したタイミングで、美波が口を開いたのだ。

 突然のことに幸村は驚いて、パソコンのキーボードから手を離した。


「え、達哉か……うーん…なんか、俺とは住む世界が違うって感じで。派手だし、ノリが合わなそうっていうか……」


 幸村の発言に、美波は目を細め、意味深な笑みを浮かべた。


「そう。じゃあ、もしあいつが裏で何か怪しいことやってたら、どうする?」

「え、怪しいことって……?」


 幸村が戸惑うと、美波は一瞬周囲を確認し、声を潜めた。


「私ね、達哉のことが嫌いなの」

「え、そうなの?」

「うん。あいつ、表面上はいい奴ぶってるけど、裏では結構ヤバいことやってるし。それに立ち回りが上手いから、なかなか本性を見せないんだよね。皆、あいつの事をいい奴だと思ってるし」

「ヤバいことって……?」


 幸村が尋ねると、美波はさらに声を落とし、衝撃的な事実を口にした。


「進藤くんには予め言っておくけど、私、達哉の双子の妹なの」

「えっ⁉」


 思わず声が大きくなり、美波に静かにと制された。


「ご、ごめん! 日高さんって、双子だったんだね」

「そう。見た目は全然似てないけどね。まあ、似たくもないんだけど」


 美波は嫌悪感を隠さず言った。


 確かに、達哉の派手な雰囲気と、美波のクールで落ち着いた雰囲気は正反対だ。

 双子という事実に、幸村はまだ頭を整理しきれなかった。


 それから美波は話を続けた。


「あいつ、裏でいろいろ怪しい動きをしてるし。高井さんや坂野さんを巻き込んで、なんか妙な計画を進めてるっぽいんだよね」

「妙な計画って?」

「詳しいことはまだわからない。でも、あの二人を放っておくと、危ないことになるかもしれないから。だからね、進藤さん、私に協力してほしいの」


 幸村は少し考え込んだ。

 那月と純恋が何か危険なことに巻き込まれているかもしれない。そんな可能性を考えただけで、幸村の心に小さな火が灯ったのだ。


「わかったよ。もし那月や純恋が危ないなら、俺、協力するよ」


 幸村の言葉に、美波は小さく頷いた。


「決まりね。じゃあ、これからよろしく」


 美波の唇に、初めて見る柔らかな笑みが浮かんだ。

 その瞬間、幸村はどこかで新しい物語が始まったような予感を感じたのだった。

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