第九話 悪魔的
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治った青茸の人々は、研究所にて粛々と生活していた。
すでに研究所内でも出ていたテーマだった。
斑点がなくなった元青茸達をどうするか。
ひとまず研究は続行、但し研究所の敷地内に仮設住宅を設置、そこで暮らしながら協力してもらっている――という形に落ち着いている。
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世間は――――
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暗い室内。二人の影。ひそひそと――話す。
「何故そんな事が、わかる?」
「私が、手を回したからだよ――」
「お前……? 何を、考えている?」
「私は
その為、には――
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所長に呼び出された。
僕は最早忙しい。
チームの長として毎日様々な報告の取りまとめから、被験者の喧嘩仲裁までなんでもござれだ。
あの子とは、なかなか会えない。
報告は聞いているが。斑点は停滞期なのか――はっきりと減りはしないが増えもしない、と。
「今日はどうされましたか?」
そろそろ、また来年度の予算が降りる頃だ。もしかしてその件だろうか。
「来年度予算だが――」
ほらきた。よしよし、研究はうまくいっている。このまま、研究続行で――
「降りそうにない」
え
「――なにゆえ、でしょうか」
何故。学会にも認められて。世間にも、賛否はあるが、受け入れる意見も散見される。何より、
拳がわなわなと、震えるのを感じる。
「青茸の治療法が見つかったのは私達にとって喜ばしい事だ。しかし、いいこと、と受け止める人ばかりじゃない」
淡々と、言った。
――青茸とそうでない人が交じると、世の中が混乱する。
それが政府の出した結論だ――
所長は、そう告げた。
「だから?」
「だから――収容所に隔離続行だそうだ」
だから――なんだってんだ! 畜生!
「青茸に対する差別が根強いのだ、青茸が治るという概念に人々がついていけてない。我々の研究は、人々を惑わす悪魔的研究扱いだ」
そんな……ことって!
「▲▲▲さんを始め、治療が終わっていない患者達が大勢いるんです! せめて、研究だけでも続けさせて下さい!」
ここで終わりたくない――僕は食い下がった。
「ここではもう、ね」
もしや……
「どうゆうことですか」
「軽症で治った人が増えてきた。予算が厳しい……ここの設備を維持できない」
だから、予算の増額が必要……だったのにッ
「代わりに元気になった人を集めて収容する、新しい収容所を用意する予定だ」
「隔離の隔離ですか……」
なんと、皮肉な。
「……仕方なかろう」
そして、所長は――決定的な一言を言った。
「来年度予算が付かなかったら――研究は凍結だ」
冷酷な――ことば。
僕は説いた。
「研究は資産です。悪魔的と罵られようと、未来の役に立つかもしれない。何より、今までの研究を棒に降る気ですか。今までの努力を――」
「そのとおり、愚かな結論だよ。だが、どうすることもできない」
所長はあくまで、事務的に言った。その表情からは、心情を伺い知る事はできない――
駄目だ。ここで、この研究を終わらせては。これでは過去に逆戻りだ。
青茸たちに未来を示せたのに……また、未来がない時代に、戻ってしまう。
なにより。なにより――
「あの子だけでも――研究を継続させてほしい」
すがりつくような目で――見る。しかし所長は。
「無理だ」
冷徹、そう感じさせる。硬い、口調――
そんな、簡単に――
「私情でいいと、おっしゃったじゃないですか!」
次第に声が大きくなる。簡単に、言わないで欲しい……。
あの子を、どうかあの子、を。
「……わかった。あの子は助けてやる。だが。ひとつ、条件がある」
え……? たすか、る……?
「私にもやりたい研究がある。それに協力してくれたなら……」
たすかる、のか……? なら。
「やります! やらせて下さい……! その研究とは?」
その研究とは。
青茸を――「健康な人に食べさせたらどうなるか」という実験だった……
■
ボクは思い出していた。昔画策したあの計画のことを。
あの子を逃がす――ボクと逃げる――。
もう、
夢想する。回復したあの子と手に手をとって歩く。
しかし、それは……………………
■■
――おぞましい。
所長の計画。それこそ、
悪魔的じゃあ、ないか……?
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