第八話 世論
「何故ですか!」
「わかるだろう? データが足りない。
一例ではな。
来年度から予算を増やして、人員と施設、被験者もそちらに裂こう。
軽症、中等症、重症。これらでデータをとる。
栄養、睡眠、清潔を整えてきのこを抜かない群、民間療法をする群、青茸に対して何もしない群に分けて対照実験を行う。
――それでいいな?」
正論だった……。僕は、そんな事も考えつかなかった。……焦っている。
「……はい」
僕は、眼前の結果にしか意識が向いていなかった。
あの子の青い斑点が減っている、
という結果――青茸たちに治る道を示せたという思いと、
あの子を救えるかもしれないという想いで。
慎重に。慎重に、だ。
全ては上手くいっている。
研究も――あの子の病状も。
だのに。
この……胸を突く不安は――なんなんだ?
■■
論文
青茸に対しての、栄養・睡眠・清潔が及ぼす治療効果について
「青茸だから病むのではなく、病むから青茸になる」という仮説をもとに、身体が回復すれば精神状態や青い斑点も減退するのでは、と身体状態を復調させるケアを行った。
青茸の者を軽症、中等症、重症に分け、これらを更にA群(青茸に対して栄養・睡眠・清潔を整える群)、B群(民間療法。青茸の斑点が出たらきのこを抜く群)、C群(コントロール群、青茸に対して何もしない)に分けて、一年に渡り調査した。
結果、B群とC群とは対照的に、A群で軽症化が有意にみられ、軽症A群に関しては現在斑点はなくなった。この事から、仮説が立証されたのではないかと考える。
特筆すべきは、B群の民間療法を行った群においては寧ろ症状が増悪した点だ。今までの民間療法による治療には効果がないどころか、症状が重くなる可能性がある。また今後の課題としては左記の点と、中等症、重症においても最終的に斑点が無くなるものか。追加調査を行い、調査していきたい。
詳細は、以下の通り。
軽症A群 六か月で斑点は完全に引く
軽症B群 三か月で中等症化
軽症C群 変化なし
中等症A群 一年で少しずつ斑点が引いて、軽症ほどになる
中等症B群 三か月で重症化
中等症C群 変化なし
重症A群 一年で少しづつ斑点が引いて、中等症ほどになる
重症B群 三か月で衰弱死
重症C群 一年で衰弱死
…………
■■
――――以上が私たちの研究結果です。
会場が、ざわつく。いや、研究内容を申請した時からざわついていた気がする。
質疑応答――
「個体差はないではないでしょうか」
「再発はありますか」
「十分な栄養の定義とは。どこからが十分といえるとお考えですか」
「十分な睡眠とは」
想定の範囲内の質問。坦々と回答していく。
「そのご質問に関しましては――」
■
この世界にはうつ病が存在しない。
うつ病など、あらゆる精神疾患は「病み」「青茸」などと称され、すべてはきのこのせいになる。
ボクが転生してきて、だいぶ経ってから知ったことだ。
青茸とメンタルの病気と感染症。これらは切り離す必要があるのではないか。と、仮定する――
この世界の人々は青茸=メンタルの病気、狂気、病み=感染する。と、みなしている。
現代――元の世界の考えで言えば、メンタルの病気が感染する訳ないんだ。
だからそもそも、青茸が感染するなんて考えがはびこっているのが間違いなんだ。
メンタルの病気で、人が――自殺以外で死ぬはずがない。
だのに。実際この世界の人は青茸で――メンタルを病んで死ぬ。正確には衰弱死する。
なんで衰弱していくんだ。
それがわからない。わから、ない――
■■
「今後どの程度の追跡調査で斑点が引くとお考えですか」
痛い、質問。
そんなものは、わからない――
「今後の追跡調査次第となります。ただ、中等症、重症と症状が深くになるにつれ治りにくくなるのは今回の結果から見ても明らかであり、早期の介入が重要であると思われます」
………………
■■
青茸が治る。
このニュースはメディアを介して、一気に広まった。
世論は二分した。
治る、と希望を見出すもの。
デマだ、研究に誤りがあるのだ、と断ずるもの。
今までの療法が間違ってたのか、と怒るもの。
自分も気落ちしたら青茸になるのかと不安がるもの。
中でも特に議論が白熱したテーマが。
――治った青茸はどうなる?
青茸と一緒に暮らすなんて無理
きもちわるい
病みたくない
因子は体内に残ってないの?
めっちゃご飯食べればいんじゃね 笑
それは差別か、区別か――
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