第4話 甘くて苦い時間
初対面の女と夜を共に過ごす。
俺は、全裸でベッドに腰掛けていた。
行為自体は初めてなわけじゃない。死ぬ前、俺は女の性欲処理道具だった。
初めては小学校の女教師。次は、同じ塾に通っていた同い年の女。冷めきった親父に似てるって理由で、母さんにも。
俺はいつも下で、上に女がいた。ポリ公に言う事だってできたし、殺そうと思えば殺せた。なぜ、誰にも助けを求めなかったかなんて、俺が1番知りたい。
だが今回は俺が上だ、絶対に。
あのいかにも幸せ温室で、ぬくぬく育った女を、今までの気晴らしに使う。
3回ノックの音がする。
「入れよ」
「失礼します」
ドアが開くと、妙に凛々しい顔をしたあの女がいた。な、なんだこの面構え。風呂上がりってのに、色気が全くないぞ。
「なんで全裸なの?早くない?」
「あ"ー、文句かよ?お前も脱げ、ゴラ。俺は脱がせてやんねーぞ」
静寂が訪れる。なんの時間だ。
しばらくすると、女は両手で自分の頬を叩いた。昭和の気合い入れみてぇに。
「思ったんだけどね。よく知らない人と、こういうのは良くないんじゃないかな」
呑気なヤツだな、ムカつく。
みぞおち殴って、抵抗できないようにしてやるか…。女でも関係ない。俺は立ち上がり、女に近づいて拳に力を込める。
「合意してるわけじゃないし、ごめんね。私は燕さんの意見を聞きたい」
真っ直ぐ見つめられると、俺の心臓が速く動いた。ネズミになった気分だ。
今までに感じた事のない感情。殺意とはまた違う心臓の速さ。
「…俺は、嫌だな」
不思議と拳の力が抜けていく。女は明るい表情をして俺を見つめた。
「じゃあ服を着よう!そして近いよ!」
俺の全裸姿に照れている様子はない。本当に気がないんだろう。やっぱりムカつく。
「パンツぐらいは履いてやるよ」
「ありがとう」
俺がボクサーパンツを履いていると、
「あのですね…喧嘩しない?」
なんだコイツ。男女が部屋に2人きりで、こんなに色気のねぇ展開あるか、普通?
「拳で語れってヤツだよ」
俺たちは喧嘩した。どこからそんな声が出るのか、女は俺に張り合う大声を出す。急所を殴ったり、蹴ったり。
気づいたら、お互いに血を流して、興奮状態だった。俺は感情に任せて、この世界に来る前の事を話した。女はただ俺の羽交い締めから逃げ出そうとしていた。俺が初めてする、真面目な話なのにな。
「もらったぞ!おんなーっ!!!」
「名前を覚えて!私は鳶だー!」
喧嘩が終わると俺はベッドに寝転び、手招きする。鳶は吹っ切れたように、ベッドに飛び込んで来た。
「初めての肉体的な喧嘩だった」
「口喧嘩はすんのか?」
「姉ちゃんとよくしてたよ。負けちゃうんだけどね」
喧嘩をすると性格も出る。殴り方とか蹴り、逃げる時とか。意外と鳶は、頭を使ってワイルドに蹴るタイプだった。
ー少し時間を遡るー
部屋の外では、2人の声を聞こうとベニヒワが聞き耳を立てていた。
「悪趣味ですよ」
「静かにオオワシさん!2人の愛の囁きが、聞こえなくなってしまいます!」
ベニヒワの生きがいは、お菓子作りから、尊い2人を拝む事に変わっていた。
部屋から大声が聞こえてくる。
「息上がってんじゃねーのか!?」
「燕さんこそハァハァ言ってるけどねー!」
ベニヒワは、鼻血を出して廊下に倒れ込む。
「どう聞いても、愛の囁きには聞こえませんが」
「黙って下さいオオワシさん!今は…浸りたいんです」
オオワシが呆れて去ると、ベニヒワは密かに、ガッツポーズをして涙を流した。
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