閑話#1

3つの怪談に関する文章をまとめ終わった私は、Wordファイルを閉じ一息ついた。

3つの怪談について、今のところ構成要素として共通するところもなく宏昌は何を調べていたのか検討がつかない。


「奇妙な怪物に、神隠しを産むエスカレーター、そして笑顔の怪異か」


私は呟きながら、パソコンの画面に並ぶファイル名を見つめた。

どれも宏昌が残した資料で、編集日時はここ数年以内に集中している。偶然かもしれないが現時点での怪異が発生した地点は、同じ地域である可能性が記述の端々から感じられた。


宏昌は、何かを追っていた。単なる都市伝説の収集ではない。

彼はこの土地に潜む“何か”を、怪異という断片から浮かび上がらせようとしていたのではないか、そんな気がしてしまう。



パソコンのフォルダには、まだ開いていないファイルがいくつもある。

タイトルは曖昧で、内容を推測することはできない。



私は深く息を吸い、次のファイルをクリックした。画面に現れたのは、見慣れない言葉で始まる一文だった。


> “境界は、日常の裂け目に潜む。”


その瞬間、部屋の空気がわずかに揺れた気がした。

怪異は、まだ終わっていない。むしろ、これからが本番なのかもしれない。


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