③
おばあさんのそんな言葉に、私は今度は黙って頷いた。
確かに、そうかもしれない。
一緒にいたらむしろ「嫌い」になってしまうのかもしれないし、「別れたい」って思う日だってあるのかもしれない。
でも、その日も全部含めて、私は彼との2人の時間を見てみたかった。
だから…
「っ…共感できませんね。確かにこの10年楽しいことだっていっぱいありましたけど、悲しいことだって数え切れないほどありました。私はこの10年っていう長い期間があるからこそ誰にも負けない自信だってあったし報われたいんです!」
「…」
私はそう言うと、そろそろ山へ入るべく「失礼しました」とおばあさんを横切って店を出ようとする。
すると、次の瞬間。おばあさんが、何かを決断したように私のことを呼び止めた。
「っ…わかった!」
「…え?」
「だったら良い指輪があるから、死ぬ前に使ってみるかい?」
「…良い…指輪?」
その言葉に私が首を傾げている間、おばあさんが先ほどのアクセサリーのコーナーから指輪を手に取る。
そして、半信半疑の私の手にそれを握らせると、言った。
「この指輪は、絶対に恋が叶う指輪だよ。この指輪を、相手の左手の薬指にはめてごらん。するとその瞬間、お前さんとその男は絶対に離れられない関係になるから」
「え、えぇっ!?まさか、そんな…」
おばあさんが私に向かってそう言っている間、私の右手の中には確かな指輪の感触を感じた。
たぶん、握った感じだと何の飾りもないシンプルな指輪なんだろうが、おばあさんの言うそんな都合の良い指輪が存在するなんて、とても信じがたい。
ふざけてるの?
だけど人が自殺をしようとしている時に、こんななかなか信じられないような嘘を平気でつく人なんているだろうか?
…なんて考えていると、
「お代は要らないから、おもちゃを貰ったと思って受け取っておきな」
なんておばあさんに言われるから、私はやがてその言葉に頷いてしまった。
「…~っ……ハイ」
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