自由を知らない僕が、セーラー服の奴隷と「遊園地」を目指す理由
@koshiitete
第1話 セーラー服の奴隷
今日、初めて奴隷を買った。
とはいえ、なにか特段、奴隷を必要としている訳ではなかった。僕は一通り家事ができるし、迷宮探索も一人が性に合っている。奴隷を傷つけて憂さを晴らす趣味も、無理やり強いる癖もなかった。
「なら、どうして私を買ったの?」
嘲るように、サエハは言った。奴隷の証である黒い首輪と、彼女の着るセーラー服が酷く不釣り合いだった。
「気まぐれに買うなら誰でも良かったでしょ。それなのに、わざわざ私を選んで買うとかさ」
聞こえていたから、と吐き捨てたサエハ。どうやら奴隷商人の口上が耳に入っていたらしい。
何気なく寄った奴隷市。それは野菜や果物、日用品を売る市場から少しだけ離れた薄暗い一角に設けられていた。
大勢の奴隷が鎖を付けられ、家畜や道具のように並べられている中、音もなく現れた奴隷商人。見慣れない僕に怪訝な顔をしていたけど、直ぐに意味深な笑みを浮かべ、両手を揉み合わせて言う。
『これがおすすめですよ、若旦那! 最近外から入ったもので、少々口は悪いですが、ほら、器量は良いでしょう。外では学校に通っていまして、この娘はその中でも一番ちやほやされる、上等な娘の一人だったようですよ。少々胸が貧相ですが、手付かずの清い身体です。もし気になるなら、今ここで確認することも——』
「童貞。くそヘンタイ」
サエハは心から見下すように続ける。
「どうせ根暗で、周りの女に相手にされないんでしょ。それで代わりに、抵抗できない奴隷で満足しようとか……可哀想。本当に気持ち悪いね」
「……たしかに僕は根暗だけど、君に手を出すつもりはないよ」
「なら自由にしてよ」
顎をあげ、強い口調で言う彼女だが、どうしても混ざってしまう懇願の声色。
必死に虚勢を張っているが、これからどうなるか、不安で堪らないのだろう。
今まで普通に送っていた生活が一変し、奴隷という身分に堕とされる。外の常識が通用しない『島』に連れていかれ、知らない男に商品として買われる。
それがどれだけの恐怖か。分からないほど僕は冷血漢ではない。
「それはできない」
だけど、そんな彼女の願いを一蹴できるほどには、『島』の人間だった。
「仮に自由になったとしても、どうするの? 何も知らない外の人間が『島』で生きていけるとでも? くだらない連中に捕まって、さんざん嬲られた挙句、店に逆戻りだろうね。むしろ、それくらいで済めば良いけど」
「それは……」
「もしも奇跡が起こって、外に出られたとしよう。でも、外から連れて来られた人間は”居場所の記憶”を奪われているはずだ。どこに戻れば良いかも分からないのに、どうする気なの?」
「……っ」
サエハが僕を睨む。怒りと憎しみ、絶望が入り混じった物凄い目だった。
外から連れて来られた奴隷は、自分の居場所に関する記憶を上手く思い出せなくなる。故郷の両親の家、通っていた学校の場所、外から『島』にどうやって来たか――帰る場所を特定するための情報が、意識から消されるのだ。
全ては奴隷の逃走を防ぐため。奴隷が文化として根付く『島』の残酷な処置だった。
サエハの視線に射貫かれながら、僕は淡々と続けた。
「僕が君を買うために、支払った金額ぶんの働きをしたら解放する。それまで君は奴隷だよ。その首輪がある限り、どこにも逃げられない」
それだけ言って、僕は扉を閉めた。
途端、漏れ聞こえる泣き声。嗚咽とすすり泣きが混じった、隠しようのない悲痛な叫びだった。
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