第4話 あんたが嫌じゃない
(魔物って言ったってこいつは悪いことはしていない。 他のやつが恐れるほど、魔物ってやつは何をしてきたんだ?)
こいつはこんなに、いいやつ? なのに。というか、さっきまで『ここどこ!?』みたいに取り乱して不安で泣いていたくせに。オレが怒り狂っていた時はすごく冷静で、どんな間違った判断でも正してくれるような君主のようにも見えた。不思議だ、こいつの存在は。
オレは悶々とした気持ちを抱えながらガルドールの隣に並び、歩き続けた。気づけば日も暮れてきている。
「野宿か……」
「悪かった、俺がいたばかりに」
つい、ポツリとボヤくと。ガルドールもポツリとつぶやく。
「別にそんな意味で言ったんじゃない……悪い」
「気にするな。それより今のうちに火を起こす準備をするか」
「だな、何か食い物も探すわ」
ガルドールは火起こしを、オレは少し離れた場所にあった森の中で食べれそうなキノコや果実を見つけた。不思議とこれは何で味はどんなで、そういう知識は思い出せた。毒のある物も覚えていたのは幸いだ。
さっきみたいにウルフや危険な生物が現れても見つけられやすい木々も生えた丘を選び、ガルドールは火を起こしたが、その方法は魔法だった。手からポッと現れたそれは手品のようで見事で綺麗で、オレは見惚れた。
「あんたって、すごいな」
「なんとなく、こうすれば出せるのではと思っただけだ」
それは身体が覚えているということだろう。ならさっき振る舞った勇ましさを感じる姿も元のこいつ、ということになるのか。
すっかり周囲は暗くなり、焚き火がお互いの姿を照らす。炎に揺らめくガルドールは自分とは遠い立場の存在なのでは、そんな気がした。
「あんたっていくつくらいなんだろうな」
「いくつ?」
「魔物……っていう言い方は好きじゃないけど。あんたみたいな種族は人間とは違うんだろうな。いくつくらいなのかなって」
ガルドールは焚き火を見つめながらうなる。立っていると身長ばかりが目立っていたが、座ってよく見ると肌の色や耳の形の違いはあれど、生きている者といった感じだ。
(それに、そこそこ、カッコいい顔だし)
そんなことを考えていたらガルドールがチラッとこちらを見た。考えていたことがバレたとしたら、気まずいタイミングだ。
「お前……リングは、見た目としては二十歳だろうな。俺もそのくらいかもな」
「……マジぃ? あんた、オレとあんまり変わんないの? そんな立派な体格で」
「ふ、どうかな……もしかしたら、もっともっと長く生きてるのかもしれない」
人間でないなら、その可能性はあるだろう。
けれど、こうして話して思うのは話していて心地良いということ。種族の違いはあってもガルドールとは同じ空間にいても考え方が違っていたとしても嫌じゃない。
(ずっと一緒でもいいかも、なんてな)
そんな会話をしながら採取した食料を食べ終え、明日に備えることにした。
「オレは後でいい。まだ眠れなさそうだし」
火の見張り番はしなきゃいけない。ガルドールに先に寝るよう促し、ガルドールはそのまま目を閉じた。
「……寝転がればいいじゃん」
「このままで大丈夫だ」
地面にあぐらをかいた姿勢で寝ようとしているガルドールに苦笑いし、オレは黙って火を見つめる。
(ガルドールのことは少しわかってきたな……)
あとは自分。自分は一体誰なのか。何をしていたのか。オレも誰かに嫌われる存在だったのか。もしそうなら、そんな目で見られたら。オレはガルドールみたいに冷静でいられるだろうか。あからさまな敵意に毅然と……多分難しい。
オレは、一体――。
「……ぐずっ」
何やら音がして、オレは焚き火からそちらへ視線を向ける。
下をうつむいたガルドールがまた涙を流していた。
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