第3話 なんで嫌われている

 無言でひたすら歩みを進めると平原の中に小さな村があった。道中ウルフ達に再度襲われなかったのはガルドールの効果だろうか。

 まぁ、歩くたびに地が揺れるし、鎧のパーツがカシャカシャすごい音しているし。


「村、行ってみるか」


 周囲はただの木の柵に囲まれた、行き交う旅人もいなさそうな村だ。自給自足で暮らしている、といったところか。ちょうど入り口のすぐ近くにあるだけに帽子をかぶったおじさんがいた。


「すみませ〜ん、ちょっと道に迷ったんですけど」


 オレが声をかけると前かがみになって作業をしていた体勢から「はいはい」と顔が上がる。

 穏やかそうな表情をしていたが、それはすぐさま一変する。


「ひぃ! 魔物だぁッ!」


 おじさんは血相を変えて村の中へ走り去る。叫び声を聞きつけた他の村人が数人武器をかまえて現れるまでは、あっという間だった。


「お、おいおい! なんだよ! なんでいきなり武器向けられなきゃなんないんだよ!」


 オレは退路だけ確保しようとした。だが背後には村人に対し、不安そうな視線を向けるガルドールがいるので取り囲まれる心配はなさそうだ。


「何言ってる! そんな魔物を連れているくせに!」


 一人の村人のその言葉で全てがわかった。村人がガルドールに向ける視線が冷たく、憎しみを持ち、恐れを抱いていること。

 何かをしたわけではないのに……いや何かをしたから恐れられているのか?


「やめろ!」


 オレには何もわからない。こいつが何者なのか、何をしたのか。

 けれどオレはわからないから。こいつを嫌う理由はない。


「こいつが何をしたって言うんだ!?」


「バカか! こいつは魔物だぞ! 魔物は人間に害をなす! 無差別に命を奪うんだ!」


「無差別に命を奪うって言うならこいつは、とっくに襲いかかってるはずだ! 何もしてないだろ!」


「いいや! 魔物ってだけで害だ! そばにいられたんじゃ、いつ襲われるやら!」


 村人が口々に叫ぶのは、ガルドールに対する悪口雑言。何もしていないこいつを擁護する声は一つとして上がらない。

 オレの頭に血が上った。そのせいか自ずとオレは自分の腰に提げた剣に手を当てていた。


「ひぃ! なんだ! お前、人間相手に剣を向けるのか!? お前も魔物か!」


 剣に手を伸ばしたのが予想外だったのか、村人はおののき、一歩後ろへ退く。

 オレは威嚇してやろうと反対に一歩、前に出ようとした、だが――。


「やめろ」


 後ろからオレの肩に置かれた大男の手。


「なんでっ」


「相手を怖がらせるものじゃない」


「だってあんたは!」


「とりあえず離れよう」


 ガルドールは身を翻し、ドスドスと離れて行ってしまった。村人がどよめいていたが、オレは大きく舌打ちしてガルドールの後を追った。


 村から離れ、再び広い大地の中へ。村人が尾行してこないのを確認し、オレはガルドールに「なんで止めた」と歩きながら聞いた。イライラがまだ治まらない。


「俺は魔物らしいからな。それだけで忌み嫌われる対象だ」


「だからって、あんたが何かしたわけじゃないだろ。何も悪くない」


「それは思い出せないだけかもしれない。実際、オレは何かした可能性もある。なら攻撃しては余計に状況が悪化するだけだ……でも感謝する、リング」


 不意に名前が呼ばれ、オレの中の沸々したものがフッと消える。横目でガルドールを見上げると、あんなことを言われた後なのに。

 こいつは笑っていた。


「お前がオレのために怒ってくれた、オレは嬉しい」


「な、何言ってるんだよ……」


「だがお前が悪人になる必要はない。おそらくお前は人間に嫌われていない。あえて敵を作ることはないからな」


 オレは何も言い返せなくなった。ただこいつの笑顔での『嬉しい』という言葉が、ずっと胸の中を行き来し、あたためてくれた。

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