第10話: 鈴鹿、日本の誇り
2010年・鈴鹿サーキット
-開幕前-
2010年春。
F1日本グランプリの開催に先立ち、メディア各社の報道は一様に熱を帯びていた。
「HONDA撤退の空白を埋める新スポンサー──ユウラク(YuRaKu)」
見出しが躍り、キャスターが誇らしげに語る。
地方紙でさえも「地元から世界へ、日本企業の気概」と社説に載せるほどだった。
ケンイチは、その紙面をホテルの一室で広げ、静かに息をつく。
“広告”ではなく“誇り”として語られる──その重みを、肌で感じていた。
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-神谷の覚悟-
開幕セレモニー。
壇上に立った神谷は、落ち着いた表情のまま、力強い言葉を放った。
「我々は単に広告枠を買ったのではない。
日本がまだ世界と戦えることを示すために、この場所に立った」
会場の拍手は一瞬遅れて大きなうねりとなり、観客席から日の丸が揺れる。
経営者の言葉を超え、日本代表としての宣言のように響いた。
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-スタンドの熱気-
レース当日。
鈴鹿の空は澄み渡り、秋晴れの光がサーキットを包んでいた。
観客席には「YuRaKu」のロゴを刷り込んだ旗と、赤い日の丸が並ぶ。
轟音とともにマシンが通過すると、地鳴りのような歓声が響いた。
ケンイチは人波の中で立ち尽くしながら、その熱に圧倒される。
「ブランドとは、こんなにも国民の心に火をつけるもの」
彼の胸に、そんな実感が深く刻まれていた。
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-光と影-
一方で、ケンイチの目に入るのは別の新聞記事の見出しだった。
「国内配送問題、解決遠く」
「若者の格差拡大」
光の裏に必ず影が生まれることを、彼は忘れなかった。
それでも今は、日本中が一つの熱狂を共有している。
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-終幕と次なる舞台-
レースは無事に終わり、夜空に花火が打ち上がる。
観客の誰もが「日本はまだ戦える」と確信した表情を浮かべていた。
その光景を眺めながら、ケンイチは心の奥で呟く。
「次は──モナコだ」
歓声と花火の音が重なり、彼の胸には期待と不安がないまぜになって膨らんでいった。
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