第2話 上げるべきか、下げるべきか、それが問題だ

宮本先輩と一緒に仕事をしてたのは、大学を卒業し社会人デビューして2年目だった。


「町田君、コレ頼むよ」と係長から回された仕事。

これがかなりやっかいだった。

他の課との調整が必要で、2年目の僕がやるべき仕事ではないように感じた。


しかし

「これも勉強だね」

と柔らかい目で僕をたしなめたのが宮本先輩だった。


宮本先輩は係長から回された書類や資料をサッと見て

「あっちかぁー」


宮本先輩が顔を向けた先は、同じフロアーにあるけど僕たちとは別の課だった。


宮本先輩は少し考え、顔の向きを90度左にひねる。


「マッキーちゃん。異動前はあのはしだったよね」


20代前半の女性で通称・マッキーちゃん。

まだ若いけど高卒なので職歴はそれなりあり、仕事はしっかりこなすタイプ。

周りの信用も厚い。


「はい。あの端にいました」


宮本先輩が軽いステップで彼女の席に歩いて行き

「町田さんが受け持つことになった案件なんだけど、これ、あの端に相談しないとまずよね」

と相談を始める。


「ええ、そうでしょうね」


「この件だと第2係だよね」


「はい」


「第2係だと及川係長かぁ。及川係長ってアレだよね」


「はい。及川係長は超絶にアレです」


2年目の僕にもアレの意味は分かった。


アレ=無能


ただし、この先の意味が分からなかった。


「話を持ってくるならどっちがいいと思う?上げ?下げ?どっち?」


「私なら下げます」


「ありがとう」


翌日、宮本先輩はあの端を見て僕にこういった。


「よし、行こう。第2係長がいないすきに」


宮本先輩は僕を連れて第2係主任の席に行って話をつけてくれた。


僕は宮本先輩と第2係主任とのやり取りを立って聞いていただけ。

その後もこの件は宮本先輩がほとんどやってくれた。


宮本先輩は一連の処理をしているあいだ、ほとんど何も言わない。


“どいう言う風に処理するかを見て勉強してね”ということだろう。


でも、宮本先輩の仕事ぶりを見ても謎が残った。

宮本先輩とマッキーちゃんが話していた上げ・下げの話。


気になる。

どうも気持ち悪い。


だから、決めた。

宮本先輩に質問する。

そしたら社会人2年目の僕にとって、ものすごく勉強になる話を聞くことができた。

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